物上保証人
1.物上保証人とは
相続をするとき、死亡した人(被相続人)が「物上保証人」であるケースがあります。あまり耳なじみのない言葉ですが、どのようなケースを意味するのでしょうか?
物上保証人とは、自分の不動産などの財産を担保に入れている人のことです。
いわゆる「抵当権」がついている場合だと考えると、わかりやすいです。
自分の借金のために抵当権を設定することもありますし、他人の借金のために抵当権を設定していることもあります。
保証とは、借金の担保のことですが、これには「人的」な保証と「物的」な保証があります。人的な保証とは、「人」を担保とする場合であり、連帯保証人や保証人の場合です。これに対し、物上保証人による物的な担保は「物」を担保とする場合ですから、不動産などを担保に入れているケースを言うのです。
2.物上保証人の地位は相続されるの?
それでは、死亡した被相続人が物上保証人だった場合、相続が起こるとその地位は相続されるのでしょうか?
答えはYESです。ただ、「物上保証人」という地位が相続されるというよりも、「担保権付の財産」が相続されると考える方が、正しいです。
たとえば、Aという不動産に3,000万円の抵当権が設定されていたとしましょう。このとき、相続が起こると、相続人らは不動産を相続することとなります。ただ、「借金」そのものが相続されているわけではありません。担保がつけられているのは、あくまでAの不動産です。
そこで、遺産分割協議をしてAの不動産を相続した相続人は、もし主債務者が借金の支払をしなかったとき、債権者がAの不動産を競売にかけるために不動産を失うリスクを負いますが、Aの不動産を相続しなかった相続人が何らかのリスクを負うことはありません。
この点は、借金を相続する場合や保証人の地位を相続するのとは全く異なります。借金や保証人の地位は、相続人全体に相続されてしまうため、「Aの不動産を相続した人」などのように、特定の相続人にリスクを集中させることはできないからです。
3.物上保証人の責任の範囲は?
遺産分割協議によって抵当権つきの不動産を相続してしまった場合、その相続人は借金返済について、どこまで責任を負うことになるのでしょうか?
これについては、「物の財産価値の限度」となります。つまり、抵当権をつけられている土地の価格の限度において、責任を負うのです。
主債務者が借金を返済しないとき、債権者は物上保証人の不動産などの財産を競売にかけますが、これによっても全額の弁済を得られないとき、それ以上に物上保証人に対して支払いの請求をすることはできません。物上保証人の個人資産による支払いは不要ということです。
また、競売で売れた金額から全額の支払いができて、残りがあったら、残ったお金は物上保証人に返還されます。
そこで、抵当権付の不動産を相続しても、土地を強制売却される以上に、相続人が個人的に支払をしなければならないということはありません。この点も、借金そのものや保証人の相続とは全く異なる点です。
4.物上保証人を相続しない方法はある?
借金や保証人の相続よりはリスクが低いとはいえ、物上保証人たる地位もできれば相続したくないものです。相続しないためには、どうしたらよいのでしょうか?
借金や保証人を相続したくない場合には、相続放棄をしたら相続をしなくて済みます。もちろん物上保証人の場合も、相続放棄をしたら相続しなくて済むのですが、抵当権付の財産以外にも財産があるときに相続放棄をするともったいないです。
そこで、単なる物上保証人の場合で他にもプラスの遺産がある場合で、主債務者が支払いをすることが期待できるなら、とりあえず相続をした方が良いです。
そのまま主債務者が支払いを終えてくれたらノーリスクの不動産を取得できますし、万一支払をしなくなっても、その不動産の範囲でしか責任が及ばないからです。
ただ、抵当権付不動産がある場合、その不動産を相続しても最終的に自分のものにならないかもしれない(抵当権を実行される可能性がある)ので、遺産分割協議の際、他の相続人との間で不公平にならないように公正に不動産を評価する必要があります。
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