相続分の無いことの証明書
1.相続分の無いことの証明書
遺産相続をするとき、「相続分のないことの証明書」という書類を作成することがあります。
相続分の無いことの証明書とは、特別受益を受けるなどして相続分が無い相続人が作成する書面で、自分に相続分がないことを記したものです。もともと法定相続人であっても高額な特別受益を受けていたら、相続分がなくなります。そこで、そのような人に相続分の無いことの証明書を作成してもらい、相続手続きに利用するのです。
これが具体的に役に立つのが相続登記の場面です。
相続人が複数いるときに相続登記をしたければ、本来は遺産分割協議が必要ですが、ここで相続分の無いことの証明書があれば、その人に関しては遺産分割協議が不要になります。
相続分が無いことの証明書を作成する方法には特に定めが無く、特別受益を受けた人が、「私には相続分が無いことを確認します。」と記載して署名押印して日付を入れたら完成します。
遺産分割をして、遺産分割協議書を作成するよりも簡単なので、手続きを簡略化するためによく利用されます。
2.相続分があるのに証明書を作成するとどうなるのか?
相続分の無いことの証明書は、本当に特別受益を受けていて相続分が無いときであれば、作成しても特に問題がありません。しかし、実際には相続分があるのに他の相続人に求められて、相続分の無いことの証明書を作成してしまうことがあります。
このようにして作成された証明書を使った場合でも、不動産の相続登記はできてしまいます。
また、相続分がないことを確認するための証明書であることを認識しながら相続分の無いことの証明書を作成してしまったら、それによって、その人の遺産取得分を無いものとする旨の遺産分割協議が成立したと考えるという裁判例もあります(東京高裁昭和59年9月25日)。
そこで、いったん相続財産が無いことの証明書に署名押印してしまったら、後で争っても相続分を認めてもらうことが難しくなってしまうので、注意が必要です。自分に特別受益がないのであれば、決して相続分がないことの証明書を作成してはいけません。
3.相続放棄との違い
相続分が無いことの証明書は、相続放棄と混同されることがよくあります。相続分の無いことの証明書を作成したら、自分は相続放棄をしたので、借金も返済しなくて良くなると思い込んでしまうのです。
しかし、相続分の無いことの証明書を作成しても、相続放棄の効果はありません。相続放棄をするとはじめから相続人では無かったことになりますが、相続分の無いことの証明書を作成しても、単に相続分が認められなくなるだけで、相変わらず相続人の立場のままです。債権者から借金の請求があれば、返済しなければなりません。
借金を免れたい場合には、相続分の無いことの証明書の作成では足りず、きちんと家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。
相続放棄の申述は、自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。それを超えると、相続放棄ができなくなって、借金がある場合には返済しなければならなくなるので、注意が必要です。
早めに相続分の無いことの証明書を作成したことで「もう借金は支払わなくて良いはず」などと考えて3ヶ月が経過してしまったら、借金返済を断ることができなくなってしまいます。
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