財産分離
1.財産分離とは
財産分離とは、相続財産と、相続人の固有の財産を分離する制度です。
人が死亡すると、相続人が遺産を相続しますが、相続人に借金がある場合には、相続人が遺産を相続することにより、相続人の借金と遺産が混ざってしまいます。
すると、遺産が相続人の借金支払いに使われてしまうおそれがあり、被相続人の債権者にとって不利益になります。
また、被相続人に借金がある場合には、相続人が遺産を相続することにより、被相続人の借金と相続人の資産が混ざってしまいます。すると、相続人の財産が被相続人の借金の支払いに使われてしまうおそれがあるので、相続人の債権者にとって不利益があります。
このように、相続人の固有の財産と被相続人の遺産が混ざることにより、債権者にとって不都合がある場合に利用できるのが相続財産分離の制度です。
これを利用すると、相続人固有の財産と被相続人の遺産を分離して管理出来るので、お互いの資産がお互いの借金支払いに使われることがなくなり、それぞれの債権者が安心できます。
2.財産分離の種類
相続財産分離には、2つの種類があります。
1つ目は、第1種財産分離です。これは、相続債権者や受遺者の請求により、財産分離が行われるケースです(民法941以下)。被相続人に対して債権を持っていた人や遺言によって遺産の分与受けた受遺者が不利益を避けるための分離手続です。
2つ目は第2種財産分離です。これは、相続人に対して債権を持っている人(相続人債権者)が請求することにより、財産分離が行われるケースです(民法950条)。相続人に対して債権を持っている人が不利益を避けるための制度です。
財産分離が行われると、相続債権者や受遺者は優先的に相続財産から支払いを受けることができますし、相続人の債権者は、優先的に相続人固有の財産から支払いを受けることができます。
3.財産分離と限定承認の違い
財産分離の制度は、限定承認と似た性質を持っています。財産分離の場合にも限定承認の場合にも、相続人の財産と相続財産が分離して管理されるからです。
ただし、限定承認と財産分離には違いがあります。
まず、目的が違います。限定承認は相続人を保護するための手続きですが、財産分離は、相続債権者や相続人債権者を保護するための制度だからです。
また、限定承認は相続財産にマイナスの負債があるときやそのおそれがあるときに利用する制度ですが、財産分離は、相続財産が明らかにプラスになっている場合にも利用されます。
限定承認の対象になるのは相続財産のみですが、財産分離では、相続人固有の財産も管理と精算の対象となるという違いもあります。
さらに、財産分離の場合には、相続財産により相続債務を完済できない場合、相続人が固有の財産をもって残りの債務を支払う責任を負います。限定承認の場合には相続人が残債務を支払う必要はないので、この点も両制度の違いとなります。
両者は期限も異なります。
第1種財産分離の場合には、相続開始後3ヶ月以内に申立をしなければならないという期限がありますが、相続財産と相続人財産が混同しない間は引き続き申立が可能です。
これに対し、自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に限定承認の申述をする必要があります。
4.相続放棄や限定承認との関係
財産分離の申立が行われても相続人が相続放棄や限定承認の申述をすることは可能ですし、反対に、相続人が相続放棄や限定承認の申述をしていても、相続債権者や相続人債権者、受遺者が財産分離の申立をすることができます。
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