相続財産に車が含まれる場合の手続きや相続方法について解説
相続手続き相続財産に車が含まれる場合は少なくないでしょう。
しかし、被相続人(亡くなった方)とふだんから付き合いがあっても車までは注意が向かないことも多いですし、まして、被相続人が遠くに住んでいる親や兄弟姉妹の場合、相続があって初めて車に気付くこともあります。
しかし、車の相続は意外に厄介です。
ここでは車が相続財産に含まれる場合の手続きや相続方法について解説します。
1.相続財産に車が含まれる場合、なぜ注意が必要なのか?
(1)そもそも相続人の誰も車が要らない場合がある
車は基本的には有価物です。
しかし、動かない車はもちろん、要らない車は、それに特別な思い入れのない者にとっては全く邪魔なだけです。
様々な維持費も年間数十万円以上掛かります。
さらに、相続人が運転免許を持っていなければ相続しても使い道がありません。
しかも、箪笥やテレビのような他の有体物の場合、ゴミとして廃棄すれば済みますが、車は単純にゴミとして出せません。
このような場合、車の相続だけを放棄や拒否できるでしょうか?
もちろん、何人か相続人がいて「私は車は要らない。車は誰それが相続してくれ」ということは可能です。
これは遺産分割協議で行います。
しかし、相続人がひとりであるとか、複数いても全員が車は要らないという場合であっても、「車だけ相続財産から除く」ことはできません。
相続放棄の場合以外は、基本的に相続財産として相続しなければなりません。
放置すれば環境にも悪影響があります。
もちろん、勝手に車を山や海に放棄したりすれば犯罪です。
(2)車の名義人が被相続人でない場合もある
相続は基本的には被相続人の財産を引き継ぐものです。
しかし、ローンに残債(未払い分)が残っていたりすると名義変更されていないということもあります。
つまり、相続財産ではあるものの所有者が被相続人ではないというケースです。
この場合でも、ローンの債務者は被相続人なので、相続放棄・限定承認をしない限り、ローン債務を相続することになります。
ローンに残債(未払い分)が残っていなくてもディーラーや中古車店が所有者の場合もあります。
この場合、基本的には相続人だけで後の処分ができないので、誰が名義上の所有者なのか、車検証で所有者名義を確認しておく必要があります。
また、自動車税の滞納があることもありますが、これも相続放棄・限定承認をしない限り、相続人が相続することになります。
(3)相続放棄した場合の車の処分はどうするのか?
相続放棄に関して注意が必要なのは、民法921条に、相続財産の全部または一部を処分すると単純承認とみなされる(法定単純承認)という規定がある点です。
車が野中の一軒家にあり、放置しておいても問題ないのであれば良いのですが、街中であれば、放置するのもままならないことがあります。
そこで、廃車処分したいと思っても、相続放棄の場合は、上記の民法の規定からみて面倒なことになるおそれがあります。
つまり、車を廃車処分した場合、それが民法921条の処分に当たるかどうかです。
この点については後述します。
2.車を引き継いでいきたい場合の処理マニュアル
(1)遺言の有無
①遺言がある場合
基本的に遺言がある場合は、それに従って、遺産を分配することになります。
例えば、長男は車に興味がないが次男は車が好きな場合、被相続人が「車は次男に残す」という遺言をしているケースが考えられます。
これが遺留分の侵害にならないのであれば、そのまま次男が車を相続することになります。
もちろん、指定された者以外の相続人に車を相続させることもできます。
この手続きは遺産分割協議によります。
②遺言がない場合
遺言がない場合は遺産分割協議を行うことになります。
車が何台もあれば、A車は長男、B車は次男・・・という分割ができます。
1台しかなければ、相続人の協議により車の帰属を決定します。
相続人の誰かひとりに車を相続させるという結論でも構いませんし、相続人のうち何人かの共有にすることも可能です。
相続人のひとりに名義変更をし、売却後、代金を相続人で分けるというやり方もできます(換価分割)。
換価分割の場合、基本的には、相続人のひとり(代表相続人)への名義変更→その相続人から他の相続人への金銭の移動という形を取ります。
このため、後段の処理で贈与税が発生するのではないかという疑義が生じますが、換価分割のための手続きであることが遺産分割協議等から明らかであれば、税務署としてもそのように扱う(つまり、相続税の他に贈与税を取ることはない)ようです。
(2)手続き
①軽自動車の場合と普通自動車の場合
軽自動車の場合と普通自動車の場合で若干の違いがあります。
軽自動車の場合は、居住区域の「軽自動車検査協会」で手続きします。
普通自動車の場合は、陸運局やその支局で手続きします。
ここでは、被相続人が所有者として自動車検査証(いわゆる車検証)に記載されている場合について説明します。
まず、遺言があり、その通りに車が相続された場合は、相続関係の証明として
- 被相続人の死亡を証明する書類として「被相続人の死亡時の戸籍謄本」
- 車を相続する相続人の戸籍謄本
- 車を相続する相続人の住民票と被相続人の住民票除票
- 遺言(自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は検認を経たもの)
が必要です。
その他、提出する手続き書類に実印を押印するので、
- 車を相続する相続人の印鑑証明書(発行から3ヵ月)
も必要になります。
また、車の名義変更固有の書類として、
- 移転登録申請書
- 車検証
- 手数料納付書
が必要です。
さらに、自動車の使用を継続する場合で使用場所が異なる場合は
- 自動車保管場所証明書(いわゆる「車庫証明」)
が必要です。
遺産分割協議による場合は、相続関係の証明として、
- 被相続人の死亡や相続人と被相続人との関係を証明する書類として「被相続人の出生から死亡まで(つまり、生まれてから亡くなるまで)の戸籍・除籍謄本」
- 相続人全員の戸籍謄本
- 車を相続する相続人の住民票と被相続人の住民票除票
- 遺産分割協議書
が必要です。
なお、遺産分割協議が相続人間の協議で整わず裁判所での手続きになった場合は調停調書や判決正本が必要です。
手続きをする場合はコピーを添付し正本を提示します。
その他、提出する手続き書類に実印を押印するので、
- 相続人全員の印鑑証明書(発行から3ヵ月)
も必要になります。
その他は遺言がある場合と同様です。
なお、車の査定額が100万円以下の場合は「遺産分割協議書」ではなく、「遺産分割協議成立申立書」を提出することができます。
この場合、手続きは車を相続する相続人が単独で行うことができます。
この結果、車を相続する相続人以外の印鑑証明書は不要になります。
複数で共有する場合は共有者全員で手続きをすることになります。
もちろん、これらの陸運局や軽自動車検査協会への手続きは、代理人に依頼することもできます。
その場合には本来手続きすべき者全員の委任状を添付します。
②売る場合の手続き
前述の換価分割の場合、「代表相続人への名義変更→新所有者への名義変更」
を同時に行うこともできます。これを「W移転」と称しています。
この場合は、移転登録申請書として代表相続人への名義変更と新所有者への名義変更の2通必要です。
また、新所有者の印鑑証明書も必要になります。
「W移転」の場合、車庫証明は最終的な所有者についての車庫証明だけで十分です。
③手続きせずに使っていてはまずい?
どうせ売ってもタダ同然かコストが掛かるだけだからと名義変更等をせずにそのまま使うというケースも現実にはあります。
しかし、この場合は、車の利用価値から利得を得ていますから、前述の民法921条の規定により、ボロ車であっても単純承認と見なされてしまう(法定単純承認)可能性があります。
相続放棄ではない場合、法定単純承認の問題はありませんが、実態と異なる状態で使用を続けると、正しい状態に戻そうとした場合に面倒なことになります。
3.車を引き継ぎたくない場合の処理マニュアル
(1)ローンや税の滞納分、ローンの残債があるときはどうしたらいいか?
相続放棄をすればこれらの債務から逃れることができます。
単純承認をした場合はこれらの債務も引き継ぎます。
また、単純承認をした上で、車は要らないから引き取ってくれとローン会社に引き取ってもらうこともありますが、この場合、残債が消えるわけではありません。
事前に十分に調べていくらの滞納や残債があるかに注意が必要です。
また、相続放棄したつもりでも、法定単純承認(民法921条)として債務の弁済を求められるおそれもあります。
車の処分や使用には十分に注意してください。
(2)廃車の怖い落とし穴
たとえ廃車処分をするのにも相続人が処分するのであれば名義を相続人に移さなければならなくなります。
また、最近は、相続放棄した車を無料で引き取るサービスもあります。
残存価値のある中古車や高級外車等の場合は別として、これらの場合、無価値なものを処分しただけなので民法921条の処分に当たらないという見解が多いようです。
厳密に言えば、相続放棄の場合、相続人には相続財産の処分権はないわけですが、「続放棄したからもう知らないよ」と車を放置されてしまっては社会的にもマイナスにしかなりません。
社会的に見れば、廃車処分等の処理を(相続放棄したとは言え)法定相続人がしてくれるのはむしろ望ましいと言えます。
しかし、相続放棄に対して異議を唱えてくるのは(被相続人の)債権者です。
債権者は自分の利益を優先します。
つまり、有体物である車を処分した以上、その動機や結果が社会のためであって、相続人の利益を図ったものではないとしても、「相続人は民法921条の処分を行っており、単純承認と見なされ、従って、借金も相続するからそれを払え」と言ってくる可能性はあります。
実際には、相続人と債権者の間にかなり密接な関係がない限り、こうした処分や使用の実態を債権者が把握するのは困難で、ほとんどの場合、債権者も放置していると思われます。
しかし、相続放棄後の車の処分は問題の残る行為であり、心配な場合は弁護士等に相談してみるのが安全でしょう。
(3)廃車の具体的手続きや必要な書類
廃車には2種類の手続き、具体的には一時抹消と永久末梢があります。
基本的には前述の「W移転」と近いイメージですが、廃車の場合は必要書類がかなり簡略化されています。もちろん、廃車のための申請書とナンバープレートの提出が必要です。
まとめ
車の相続の手続きは、相続人(の方々)が自分でもできますが、ただでさえ名義変更という面倒な手続きがある上、それが相続の単純承認につながりかねないリスクもあります。
業者が名義変更や廃車の手配をしてくれることもありますが、軽い気持ちでやったのに、単純承認と見なされ巨額の借金地獄に堕ちるおそれもあるわけです。
車の相続は慎重にすべきです。
相続に強い弁護士に相談すればきめ細かく法律的なアドバイスを受けられるので安心と言えるでしょう。