申告後に隠し財産が!相続税の修正申告手順とペナルティについて
相続税 / 贈与税相続税の申告は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内にしなければならないとされています。しかし、10か月という短期間で、遺産の全てを正確に把握することは難しく、申告後に新たな財産が発見されるということも少なくはありません。
また、相続税の計算が複雑であることから、納税額を間違えて申告してしまうこともあります。申告漏れや相続税の計算に間違いがあった場合は申告をやり直す必要があります。
申告のやり直しには、税額を少なく申告した場合の修正申告と、税額を多く申告した場合の更正の請求という2つの方法があります。
今回は、税額を少なく申告した場合に必要となる修正申告について解説します。
1.修正申告とは
修正申告とは、財産の申告漏れや計算間違いにより実際よりも税額を少なく申告した場合に必要となる手続きです。
修正申告には、納税者が自ら申告の誤りに気付いて自発的に行う場合と、税務署の税務調査により申告漏れを指摘されて行う場合、そして、相続税の申告期限内(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)に相続税を申告しなかった場合に行う必要があります。
2.修正申告とペナルティ
相続税を決められた期限内に、正しく申告しないことは、申告義務違反とみなされるため、修正申告に際しては、加算税と延滞税というペナルティが課税されることになります。
加算税には、申告や納税を怠った程度に応じて下記の3つに分けられます。
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 重加算税
(1)過少申告加算税
相続税を少なく申告した場合には、新たに納めることになる相続税に対して10%相当額が過少申告加算税として課税されます。ただし、新たに納める相続税の額が、当初の申告税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている場合は、その超えている部分については15%になります。
具体例で見ていきましょう。
当初の申告税額が20万円、修正申告により新たに納付することになった税額が80万円であった場合の過少申告加算税は下記の通りになります。
当初の申告税額は20万円なので、50万円の方が多いので、50万円を超える部分については15%、50万円までは10%相当金額が課税されることになります。
(80万円-50万円)×15%=4万5000円
(50万円-20万円)×10%=3万円
したがって、このケースでは7万5000円が過少申告加算税として課せられることになります。
この過少申告加算税は、自発的に修正申告を行った場合には課税されませんので、新たに遺産を発見した場合などは速やかに修正申告を行うようにしましょう。
(2)無申告加算税
申告期限内に相続税の申告を行わなかった場合には、納めるべき相続税に対して15%相当額が無申告加算税として課税されます。ただし、納めるべき相続税の額が50万円を超える場合には、その超過分については20%となります。
例えば、納めるべき相続税の額が30万円の場合は、30万円×15%=4万5000円が無申告加算税となります。
納めるべき相続税の額が60万円の場合には、50万円×15%+(60万円-50万円)×20%=6万5000円を無申告加算税として支払う必要があります。
なお、災害や交通・通信の途絶などやむをえない事由で期限内に申告書を提出できなかった場合には、この無申告加算税は課税されません。
また、期限後に自主的に申告書を提出した場合で、その申告が法定申告期限の1か月以内に行われたものであり、かつ申告書の提出の前日から起算して5年前の日までの間に無申告加算税又は重加算税を課されたことがない場合には、法定納期限までに全額を納めれば、無申告加算税は課されないとされています。
(3)重加算税
納税者が相続財産を隠すなど、隠蔽や仮装などによって申告をした、または申告を怠った場合に課せられるのが重加算税です。
いわゆる脱税行為があった場合のペナルティであることから、加算税のなかでも税率が最も高く、隠蔽や仮装により少なく税額を申告した場合は、納税額の35%、申告を怠った場合は、納税額の40%相当額が課税されます。
(4)延滞税
自発的に修正申告を行った場合でも、期限内に相続税を納付しなかったペナルティとして課税されるのが延滞税です。
延滞税は、修正申告により納付すべき相続税がある場合の他、期限内に申告を提出した場合であっても、その納付すべき相続税を法定納期限までに納付しなかった場合にも、課税されます。
いずれの場合も、延滞した日数に応じて延滞税が課税されることになります。
具体的には、納期限の翌日から2か月以内は、年7.3%、2か月経過後の期間については年14.6%が原則となりますが、年度によって税率が変動するため、詳細は国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxanswer/osirase/9205.htm)を参照してください。
3.税務調査
相続税の申告がなされると、税務署では申告された相続税の金額が正しいかどうかをチェックするため税務調査を行います。
この税務調査は、すべての申告に対して行われるわけではありませんが、国税庁が公表している資料によれば申告の2割程度が税務調査の対象となっています。
では、税務調査の対象はどのような基準で決定されるのでしょうか。
(1)税務署は亡くなった人の財産を把握している
個人が死亡した場合、その相続人等は7日以内に市区町村長に対し死亡届を提出する必要があります。
相続税法では、死亡届を受けた市区町村長は、提出を受けた日の翌月末日までに、死亡届に記載された内容を所轄内の税務署長に通知しなければならないと規定されているため、この通知により税務署は個人の死亡の事実を知ることができるのです。
また税務署は、必要があれば官公署や政府機関に対し、調査の参考となる帳簿書類などの閲覧・提供を求めることができ、金融機関に対しても、被相続人や相続人名義の口座の有無や残高などを文書で照会することができます。
つまり、税務署は、被相続人の死亡の事実だけでなく、被相続人の年収や、不動産や預貯金などの財産を把握していることになります。
そのため、税務署が把握している財産に比べ、申告された財産の額が低ければ、当然に税務調査の対象になってしまうことになります。
(2)税務調査の選定基準
以下のような事情があれば、税務調査の対象として選定される可能性があります。
- 税務署が把握している被相続人の収入よりも、相続財産が少ない場合
- 死亡前に多額の退職金をもらっていたはずなのに、それが申告財産に含まれていない場合
- 収入に比べて、相続人の財産が異常に多い場合
- 死亡前に用途不明の多額の預貯金が引き出されていた場合
- 被相続人に多額の借入金があったにもかかわらず、それに見合った相続財産が申告されていない場合
(3)税務調査の8割強が申告漏れを指摘される
国税庁の公表によれば、平成26年に相続税の課税対象となった被相続人が5万6千人に対し、相続税の申告後、税務調査を行った件数が12116件。このうち、82%にあたる9930件に申告漏れが発見されています。
つまり税務調査の対象となった申告のうち8割強に申告の誤りがあったということになります。
(4)申告漏れが指摘されやすいのは現金・預貯金
先の国税庁の公表によれば、申告漏れが指摘された相続財産額のうち、現金・貯金が占める割合は32.4%、額面で1070億円に上ります。次いで有価証券が16.2%(535億円)、土地が11.6%(383億円)の順となっています。
預貯金の中でも、申告漏れを指摘されやすいのが「名義預金」です。
税務調査では被相続人の預貯金はもちろんのこと、相続人や親族・孫名義の預貯金についても、それが名義預金でないかどうか、実質的な管理者は誰かといったことが調査の対象となります。
この調査には、預金作成時の書類などの筆跡鑑定も含まれることから、名義預金であるかどうかの判断が容易になされてしまうことになります。
例えば孫名義の預金であっても、被相続人がその預金を管理していた場合は、被相続人の財産として認定されることになります。
また、例えば孫に財産を残そうと、贈与税の非課税枠(年間110万円まで)を使って、毎年100万円を10年間、孫の預金口座に振り込んでいた場合でも、被相続人が預金通帳や印鑑を保管していると、名義預金と判断される危険性があります。
税務調査で名義預金と認定されれば、申告漏れとして加算税が課税されることになりますので、親族や孫名義の口座であっても被相続人が管理していた預貯金については、相続財産に含めて申告するようにしましょう。
4.申告漏れの財産が見つかった場合の対処法
相続税の申告後に新たに財産が見つかった場合は、自発的に修正申告をするのが得策です。税務署は被相続人の財産を把握しているため、自発的に修正申告をしなくても、税務調査により申告から漏れた財産はいとも簡単に発見されてしまいます。
その上、ペナルティとして加算税が課せられてしまうことになるため、申告漏れを放置していることにメリットはありません。ここでは修正申告の手続きを紹介します。
その前に、修正申告が必要となるケースについて再度確認しておきましょう。
(1)修正申告が必要となるケース
修正申告は、相続税を少なく申告した場合に必要となる手続きです。相続税を実際よりも過小評価する事例として下記のものが考えられます。
①財産の評価に誤りがあった場合
(例)がらくただと思っていた骨董品が実際は高値がつく財産だった場合など
②相続財産の範囲を勘違いしていた場合
(例)2年前に家を新築するときに被相続人に頭金1000万円をだしてもらっていた場合など3年前以内に贈与された財産は相続財産に含める必要があるので注意が必要です。
③特例の適用に誤りがあった場合
(例)相続税は3000万円+(相続人の数×600万円)までが基礎控除として引かれる他、小規模宅地特例や配偶者控除、未成年者控除など、相続税の負担を軽減してくれる特例制度があります。
しかし、これらの特例は無条件に適用されるわけではなく、一定の要件を満たしていることが必要です。要件を満たしていないのに、特例を適用して相続税を申告すると過少申告として修正申告が必要となります。
④分割方法が変わった場合
相続税の申告は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内と比較的短期間であることことから、その期限内に遺産分割協議がまとまらないことも少なくはありません。
この場合は、法定相続分で相続したものとして相続税の申告をすることになります。
申告後に遺産分割協議が整い、分割後の相続税が分割前の相続税よりも多かった場合は、修正申告をすることになります。
(2)修正申告に必要な書類
相続税の修正申告には、以下の書類が必要となります。
- 修正申告書
- 財産を取得した人のうちに農業相続人がいる場合の各人の算出税額及び農地等納税猶予税額の計算書
- 配偶者の税額軽減額の計算書(付表)
- 相続財産の種類別価額表 など
すべて国税庁のホームページからダウンロードできます。(https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h27.htm)
まとめ
相続税は他の税金よりも高額となることから税務署のチェックも厳しく、事実、申告の5件に1件の割合で税務調査が行われています。
安易に財産隠しを行うとかえって大損をすることにもなりかねず、また相続対策が相続税の申告で思わぬ落とし穴となり、重いペナルティが課せられるケースも多発しています。
相続財産の範囲を知り、相続財産に漏れがないかをしっかり調査すること、そして申告に誤りがあった場合は速やかに修正申告をすることが相続税の申告漏れを防ぐ近道となりますが、不慣れな相続人の方がそのすべてをクリアすることは極めて困難と言えます。
相続税を申告する必要がある場合は、相続税に精通した専門家に依頼するのが得策です。
また、申告後に、新たな財産を発見した、分割方法を変えたといった事情がある場合は、速やかに弁護士に相談するようにしてください。