払いすぎた相続税が還付される18のケースと手続きや申請方法を解説
相続税 / 贈与税近年、相続税の基礎控除が下げられたこともあり、相続税を支払わなければならないケースが増えています。
しかし、相続税は、支払いすぎになってしまうパターンがあります。
支払いすぎた相続税を返してもらうためには、還付請求という手続をとらなければなりません。
今回は、払いすぎた相続税が還付されるケースと、還付請求の方法について、解説します。
目次
- 1 1.相続税の還付とは
- 2 2.相続税が還付されるケース
- 2.1 (1)相続した土地が広大地になるケース
- 2.2 (2)土地上の建物や土地を賃貸に出している場合
- 2.3 (3)駐車場や倉庫に利用されている土地
- 2.4 (4)周囲の環境に問題がある土地
- 2.5 (5)土地の高さや傾斜が変わっている土地
- 2.6 (6)いびつな形の不整形地
- 2.7 (7)2つ以上の建物が建っている土地
- 2.8 (8)道路に面した部分のない土地
- 2.9 (9)長細い土地、奥行がない土地
- 2.10 (10)建築制限を受けるため、宅地化が難しい土地
- 2.11 (11)市街地にある田畑や山林
- 2.12 (12)上に高圧線が通っている土地
- 2.13 (13)空き地などの用途がない土地
- 2.14 (14)現地調査をしていない
- 2.15 (15)税理士が法律や税制の改正に追いついていない
- 2.16 (16)税理士が相続税の申告に不慣れ
- 2.17 (17)自分で相続税の申告を行った
- 2.18 (18)亡くなった人が年金生活者
- 3 3.相続税還付ができるかどうか調べる方法
- 4 4.相続税還付の手続き方法と注意点
- 5 5.相続税還付請求の期限
- 6 6.相続税還付請求は、自分でする?専門家に依頼する?
- 7 まとめ
1.相続税の還付とは
相続税の還付とは、払いすぎた相続税を返してもらうことです。
相続税は、自主的に計算して申告するものなので、その過程でいろいろな間違いが起こります。
相続財産の評価を誤ることもありますし、計算間違いをすることもあります。
本来相続税の控除や減額が行われるはずなのに、見逃してしまって高額な相続税を納めてしまうことがあるのです。
ところが、そのような場合、税務署の方から「払いすぎですよ」と指摘してくれることはありません。
払いすぎた相続税は、自分で還付請求をする必要があるのです。
相続税の払いすぎが起こるケースには、一定のパターンがあるので、以下で、順番に確認していきましょう。
2.相続税が還付されるケース
相続税が還付される可能性が高いケースは、以下のような場合です。
(1)相続した土地が広大地になるケース
遺産の中に不動産がある場合には、相続税の払いすぎが起こりやすくなっています。
不動産の評価方法が非常に複雑で、税理士の中にも詳しくない人が多いためです。
中でも特に過払いになりやすいのが、土地が広大地に該当する場合です。
広大地とは、500平方メートルを超える土地(地方部の場合には1000平方メートルになることがある)のことですが、広大地の場合、通常の土地とは異なる相続税評価が適用されます。
広大地評価を適用すると、土地の相続税評価額は約4割~6割も下げることができます。
ところが、これに気づかずにそのまま評価して申告されている例が非常に多いです。
500平方メートルを超える土地を相続したことがあるならば、一度は相続税の再計算をすべきです。
(2)土地上の建物や土地を賃貸に出している場合
相続した土地や、土地上の建物を賃貸に出している場合にも、通常のケースより相続税評価額が下がります。
借地権価格や借家権価格を差し引いてもらうことができるためです。
ところが、こうした減額要素に気づかずに相続税を申告しているケースがあるため、相続税の過払いが発生します。
(3)駐車場や倉庫に利用されている土地
駐車場や倉庫など、車や荷物を保管する目的の土地の場合にも、通常のケースとは異なる評価方法が適用されます。
しかし、税理士によってはそういったことに気づかないまま相続税申告をしてしまうので、過払いが起こります。
(4)周囲の環境に問題がある土地
近くに電車が走っていて騒音問題がある土地、墓地・下水処理施設・ゴミ処理施設・工場などがある場合など、周囲にマイナス要素がある場合には土地評価が下がります。
正しい評価をすることで相続税還付請求を受けられる可能性があります。
とくに、騒音や臭いなどの問題を抱えた土地や土壌汚染が起こっている土地の場合、極端なまでに評価を減額できることが多くなっています。
(5)土地の高さや傾斜が変わっている土地
土地が道路より高低差がある場合、傾斜により場所によって高さが異なる場合、一部が崖になっている場合などでは、土地の評価が下がります。
こうした土地が遺産に含まれている場合にも、過払いが起こりやすいです。
(6)いびつな形の不整形地
土地の形がいびつな場合には、不整形地として土地評価を減額してもらうことができます。
そのまま路線価で計算すると相続税の過払いが発生します。
(7)2つ以上の建物が建っている土地
複数の建物が建っている場合にも、通常のケースとは異なる相続税評価方法が採用されます。
よって評価の誤りが発生しやすいです。
(8)道路に面した部分のない土地
道路に面した部分がない土地や私道にしか接していなかったりする土地は、通常のケースより評価が下がりやすいです。
土地の一部が通路として使われている場合にも、土地評価額は下がります。
(9)長細い土地、奥行がない土地
土地の形が長細かったり、反対に奥行がなかったりすると、土地評価の減額を受けることができます。
そのまま路線価で計算すると、相続税の過払いが起こります。
(10)建築制限を受けるため、宅地化が難しい土地
都市計画法などによって建築制限がかかるため、宅地化できない土地があります。
このような場所も、評価が減額されるので、正しく評価することが必要です。
(11)市街地にある田畑や山林
田畑や山林は、評価方法が複雑になりやすいです。
特に、市街地内にある場合に評価の間違いを起こしやすいので、田畑や山林を相続したら、再度評価を見直してみることをお勧めします。
(12)上に高圧線が通っている土地
土地の上に高圧線が通っている場合には、その土地の評価額が下がります。
ただ、高圧線があることは、現地調査をしないとわからないので、気づかずにそのまま相続税申告されることが多いです。
(13)空き地などの用途がない土地
空き地など、目的がはっきりしていない土地の場合、評価が通常のケースと異なり、過払いが起きやすくなっています。
(14)現地調査をしていない
上記のように、相続税の過払いは、遺産の中に土地が含まれているケースで起こりやすいです。
不動産を適正に評価するためには、現地調査が必須です。
ところが、税理士によっては現地調査を行わず、地図や写真などの資料のみをもって相続税を計算してしまう人がいます。
このように、現地調査をしていない場合、相続税評価を誤り、過払いになっている可能性が高くなります。
(15)税理士が法律や税制の改正に追いついていない
税制や税金に関する法律は、非常に高い頻度で改正されます。
期間を区切って減額や控除の特例が設定されることもあります。
そこで、相続税を適正に計算するためには、常に最新の法律・税制を勉強して、十分な知識を得ておく必要があります。
ところが、税理士によってはこうした税制改正に追いついていない人がいます。
たとえば、若手で税理士になったばかりの人や、老年で最新の情勢などに疎くなっている税理士に相続税申告を依頼したケースなどでは、見直しをしてみた方が良いです。
(16)税理士が相続税の申告に不慣れ
税理士というと、すべての人が相続税申告に長けていると思われているかもしれませんが、実際にはそうではありません。
日本の税理士の人数は約7万人ですが、1年間の相続税申告の件数は約5万件です。
少なくとも2万人の税理士は、1年に1回も相続税の申告をしていないことになります。
相続税申告が得意な税理士が集中的に行っていることを考えると、相続税申告をほとんど行っていない税理士も非常に多いということです。
このような税理士に申告手続きを依頼しても、相続税の控除や評価減額などを適切に適用してもらうことが期待しにくく、相続税の過払いが起こります。
知り合いから紹介された税理士にそのまま依頼してしまった場合などで、対象の税理士が普段から相続税申告を行っているかどうかわからないという場合には、一度相続税評価をやり直してみた方が良いかもしれません。
(17)自分で相続税の申告を行った
相続税の申告は、税理士に依頼せずに自分で行うこともあります。
遺産の中に土地が含まれていても、路線価に従って計算をしたら良いだけだと考えて、自分で申告書を作成して提出してしまいます。
このような場合、相続税の減額や控除の制度の調査が不十分となり、相続税の払いすぎが起こりやすいです。
過去に相続税の申告納税を税理士に相談せずに自分で行った場合、もう一度見直してみた方が良いでしょう。
(18)亡くなった人が年金生活者
相続税の還付とは異なりますが、亡くなった人が年金生活者であった場合には、準確定申告をすることにより、税金の還付を受けられる可能性があります。
準確定申告とは、亡くなった人が確定申告をすべきであったけれども、年度途中で死亡したために申告できなくなり、相続人が代わりに申告を行うことです。
年金生活者の場合には、毎月源泉徴収されているので、死亡した時点より先の分まで税金をとられていることがあります。
この場合、準確定申告をすることで、払いすぎた所得税を還付してもらうことができます。
準確定申告は義務ではないので、行わない人もいるのですが、このようなケースでは準確定申告をした方が得になるので、覚えておきましょう。
3.相続税還付ができるかどうか調べる方法
相続税の還付ができるかどうかを調べるには、まずは遺産の内容に土地が含まれているかどうかを確認します。
土地が含まれている場合には、その土地に、何かしら通常の土地とは異なる評価減額要素がないかどうかを調べる必要があります。
このとき、各種の税金控除制度や減額制度について、見逃しがあると、適切に減額評価ができなくなるので、確実に自分の土地の評価を行うことが重要です。
ただ、税制に詳しくない人では、綿密に検討することは難しいので限界があるでしょう。
相続税申告を普段から多くてがけている税理士に相談して、間違いがないかどうか、指摘してもらう方が安心と言えます。
4.相続税還付の手続き方法と注意点
相続税の払いすぎが起こっていることが判明したため、還付を受けたいときには、以下のような手順で進めていきましょう。
(1)更正請求をする
相続税の還付請求を受けたい場合「更正請求」という手続きをしなければなりません。
更正請求とは、税金の計算のやり直しが必要なときに、正しく税金申告を行うよう税務署に請求する手続きです。
相続税以外の税金に間違いが発生している場合にも、更正請求を行います。
更正請求を行うときには、更正請求書を作成して税務署に提出します。
すると、税務署は、その内容について調査を実施して、還付を行うかどうかを判断します。
税務署による調査の最中、税務署から請求者に対して問い合わせが来ることもあります。
更正請求が認められれば相続税の還付を受けることができますが、否認されると還付は受けられません。
その場合、不服申立てを行うことも可能です。
(2)現地調査を行う
相続税の再評価を適正に行うためには、かならず土地の現地調査を行うことが必要です。
土地評価減額要素には、周辺環境の問題や高圧線の問題など、実際に見てみないとわからないことが多いからです。
現地調査なしに更正請求をしても、更正請求の内容自体に誤りがあり、再度更正請求が必要になってしまう例などもあります。
5.相続税還付請求の期限
相続税還付請求を行う場合には、期限があることにも注意が必要です。
相続税の更正請求は、相続税の申告期限から5年間とされています。
相続税の申告期限は相続開始後10ヶ月ですから、相続税の更正請求は、相続開始から5年10ヶ月の間ということになります。
実際に相続税を申告した日からではなく、申告期限後5年となることに、注意が必要です。
5年以内に相続税申告を行った経験がある方は、早めに見直しをしてみましょう。
6.相続税還付請求は、自分でする?専門家に依頼する?
相続税還付請求を行うときには、自分でするのと税理士に依頼するのとどちらが良いのでしょうか?
更正請求の手続自体は、自分でもできないことはありません。
しかし、その前提として、遺産内容を正しく評価し直すことが必要です。
遺産の評価方法や税制に対する知識がない状態では、適切に減額評価を適用することは難しいでしょう。
そこで、やはり税金について専門の知識を持った専門家に依頼すべきと言えます。
また、専門家に依頼すると、更正請求後の税務署との交渉等も任せられるので安心です。
ただし、更正請求を依頼するときには、専門家の中でも、特に相続税申告を得意としている人でないと意味がありません。
例えば税に詳しい税理士であっても、相続税申告をほとんど取り扱っていない人や不得意な人もいます。
そもそも、税理士であっても相続税評価を間違うことが多いため、世間では多くの相続税更正請求が起こっています。
そこで、相続税申告の取扱件数が多く、不動産鑑定士と提携しているような、相続税申告に強い専門家を探しましょう。
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まとめ
以上のように、相続税の払いすぎが起こることは非常に多く、実際に還付を受けられている人もたくさんいます。
ただ、還付請求を成功させるためには、腕の良い専門家に再評価と更正請求を依頼する必要性が高いです。
今回の記事を参考に、確実に相続税の還付を受けましょう。