生命保険は相続税対策になる?その方法や効果、注意点を解説
相続税 / 贈与税配偶者や子供など、残された家族の生活の保障のために加入する生命保険。自分の死亡後にまとまったお金が家族に残されるので安心です。
しかも、生命保険はうまく使うと相続税対策にもなります。
死亡後に入るお金なので、節税対策よりもむしろ相続税がかかるのではないかと思う人もいるでしょう。
ここでは、生命保険と相続税について解説します。
目次
1.生命保険と相続税との関係
生命保険では次の4つの立場の人が存在します。
- 保険の契約者
生命保険の契約を締結した人です。 - 被保険者
生命保険の対象者です。被保険者が怪我や入院、死亡すると保険金が支払われます。 - 保険料負担者
実際に生命保険料を支払っている人です。 - 受取人
被保険者が怪我や入院、死亡したときに、保険金を受け取る人のことです。
※毎月支払う掛金を「保険料」、受取人が受け取るお金を「保険金」といいます。
上記4つの立場の人は、すべて同じ場合もあれば、違う場合もあります。
では、どういった場合に相続税と関係がでてくるのでしょうか。
まず、相続税に関係のある保険金は死亡保険金です。
死亡保険金とは被保険者の死亡後に、受取人が保険金を受け取る保険です。
満期になったら支払われる満期保険金などは対象になりません。
相続税が対象になる生命保険の主な例は以下のとおりです。
契約者 |
被保険者 |
保険料負担者 |
受取人 |
備考 |
本人 |
本人(死亡) |
本人 |
本人 |
相続人が取得したとみなす |
本人 |
本人(死亡) |
本人 |
配偶者又は子供 |
|
配偶者 |
配偶者 |
本人(死亡) |
本人 |
|
配偶者 |
配偶者 |
本人(死亡) |
子供 |
|
本人 |
本人(死亡) |
本人1/2 配偶者1/2 |
配偶者 |
1/2が相続税 1/2が所得税(一時所得又は雑所得) |
本人 |
本人(死亡) |
本人1/2 子供1/2 |
配偶者 |
1/2が相続税 1/2が贈与税(子から配偶者へ) |
生命保険は、民法上と相続税法上で考えが異なります。民法上は受取人固有の財産とされ、相続財産に含まれません。
しかし、相続税法上では相続財産とみなし、相続税の計算をおこないます。
2.相続における生命保険の3つの効果
生命保険はうまく活用することで、相続税において多くのメリットを与えます。
ここではそのうち、特に影響の大きいものを3つ見ていきましょう。
(1)受取人を指定できる
生命保険は契約時に保険金の受取人を指定しなければいけません。
受取人の指定ができるということは、遺産分割の対策になります。
生命保険に加入せずに掛金を現預金のまま残しておくと、その分割をめぐって相続時に相続人同士でトラブルになる可能性があります。
そのため、財産を引き継がせたい人がいる場合は生命保険に加入し、受取人に指定することで、相続時の遺産分割をめぐるトラブルを回避できます。
(2)納税資金が確保できる
相続税では、相続開始を知った日から10か月以内に相続税の申告と納税を行う必要があります。
不動産などの相続財産がある場合は、納税金額が高くなる可能性もでてきます。
その場合、納税資金が足りなければ、不動産などを売却して納税資金を確保しなければなりません。
しかし、生命保険に加入していれば、死亡時にまとまった資金が相続人の手に入るので、それを納税資金にすることで、所有している不動産等を手放さなくてすみます。
(3)非課税限度額がある
生命保険は残された家族の生活の保障のために加入するものなので、相続税を課すのはそぐわないのではないかという考え方があります。
そのため、一定の金額までは相続税がかからないように、非課税枠が設定されています。
生命保険の非課税枠は、500万円×法定相続人の数です。
例えば、法定相続人が配偶者と子共2人の合計3人の場合は、500万円×3人=1,500万円までの死亡保険金には相続税がかからないことになります。
相続税の税率が20%だとすると、相続時に現預金で1,500万円ある場合の相続税は1,500万円×20%=300万円となります。
生命保険に加入することで、相続税の大きな節税対策となります。
3.受取人を孫にした場合の注意点
生命保険の受取人として配偶者や子供だけでなく、孫を指定することも可能です。
しかし、相続税のことを考えると、受取人を孫にした場合にはいくつか注意点があります。その注意点を見ていきましょう。
(1)保険金の非課税枠の適用がない
「相続における生命保険の3つの効果」で説明した通り、生命保険に加入するメリットの1つに、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠の存在があげられます。
これは、生命保険は残された家族の生活の保障のために加入するという考えのもと、この式で計算した金額までの死亡保険金は、相続税が課せられないというものです。
この非課税枠は、計算式を見ても分かる通り、法定相続人を対象にした制度です。
そのため、死亡保険金の受取人が法定相続人である場合のみ、適用できます。
被相続人の子供が亡くなっている場合(代襲相続)など特別な事情がない限り、孫は法定相続人にはなりません。
孫を受取人にしている死亡保険金には、非課税枠がないことになります。
例えば、被相続人に相続人の配偶者と2人の子、相続人でない孫の4人の親族がいた場合、子が生命保険の受取人の場合は、500万円×法定相続人の数3人=1,500万円の非課税枠があります。
一方、孫が受取人の場合は非課税枠がありません。子供ではなく孫が受取人の場合は、例えば相続税の税率が20%だとすると、相続時に現預金で1,500万円ある場合と同じように、1,500万円×20%=300万円の相続税を多く納めることになります。
受取人が子供か孫で大きく相続税の納付額が異なるので注意が必要です。
(2)相続税の2割加算の対象となる
相続財産は法定相続人が受け取るものという考え方があります。
通常、相続税では、財産を引き継いだ人が、配偶者や被相続人の一親等の血族の場合は、計算した各人ごとの相続税額を納付すれば事足ります。
ただし、それ以外の人が財産を引き継いだ場合は、相続財産は法定相続人が受け取るものという考え方から外れ、税負担の不公平感にもつながるため、その人が負担する相続税に2割を加算した金額を納付することになっています。
一親等の血族とは、被相続人の両親と実子のことを指します。
孫は一親等の血族ではないため、相続税の2割加算があります。
生命保険の受取人が子供の場合、相続税の2割加算はありません。
受取人が孫の場合は、相続税の納付額が高くなるので注意が必要です。
4.孫に財産を残した場合の対策
説明した通り、孫を死亡保険金の受取人にした場合は相続税がかかるだけでなく、納付する金額も大きくなります。
そこで、孫に財産を残した場合は生前贈与を検討します。孫に財産を生前贈与するメリットは次の2つです。
子や孫へ生前贈与して賢く相続税対策する方法
生前贈与を非課税で行い相続税を劇的に節税する方法
(1)110万円までの非課税枠がある
贈与税には1年間に110万円までの非課税枠があります。
つまり、毎年110万円までの資金の引き継ぎであれば贈与税がかかりません。
この制度を上手く利用することで、節税しながら孫に資金を残すことができます。
(2)相続開始前3年以内の贈与加算がない
実は、相続開始前の3年以内の場合に生前贈与した財産は、110万円までの贈与でそのときに贈与税がかからないものであっても、相続時に相続財産(相続税の課税価額)に加算しなくてはいけません。
そのため、相続税を支払うことになります。
ただし、孫に生前贈与した場合にはこの贈与加算の規定がありません。
110万円までの生前贈与であれば、相続開始前の3年以内のものであっても、相続時に相続財産(相続税の課税価額)に加算されないので、贈与税も相続税も課税されず、節税となります。
4.受取人が第三者である場合の注意点
では、死亡保険金の受取人が親族ではなく、第三者の場合にどうなるかを見ていきましょう。
例えば、被相続人が死亡したとき、受取人が前妻になっている生命保険があるケースは少なくありません。
前述したとおり、生命保険は民法上と相続税法上で考えが異なります。
民法上は、受取人固有の財産とされ相続財産に含まれませんが、相続税法上では、相続財産とみなして相続税の計算をおこないます。
このことを今回のケースにあてはめてみると、民法上は本来、前妻が持っていた固有の財産とみなされるので、遺産分割の対象にはなりません。
原則は遺留分も認められていないため、相続人は一切受け取ることができません。
しかし、相続税法上では相続財産とみなすので、相続税の計算の対象となります。
では、死亡保険の受取人が前妻の場合の注意点を確認しましょう。
(1)保険金の非課税枠の適用がない
こちらは、孫を死亡保険金の受取人にした場合と同じ考え方です。生命保険の非課税枠は、相続人を対象としています。
前妻は相続人ではないので、非課税枠の適用がありません。
そのため、前妻が生命保険金を受け取ると、死亡保険金の全てに相続税がかかります。
(2)相続人の相続税が高くなることも
前妻が生命保険の相続税を支払うのだから、相続人には影響がないと思うかもしれません。
しかし、相続税は複雑な計算方法となっているため、前妻が受け取った死亡保険金が、相続人の税金にまで影響を与えることがあります。
相続税の計算では、まず、相続財産を誰が受け取ったか等は関係なく、一旦法定相続人が法定相続分のとおり相続したとみなして、相続税の総額を計算します。
次に、算出した相続税の総額を、相続した遺産の割合で各人に案分。遺産を受け取った人それぞれの相続税額を算出します。
受け取った財産の金額に直接税率をかけて相続税の計算をしないので、計算過程の中でどうしても、相続人の税金にまで影響を与えます。
このように、第三者を受取人とした死亡保険金は、相続人に不利な影響をもたらします。生前に被相続人とコミュニケーションをよくとり、第三者が受取人となっている生命保険はないかを確認し、あるなら受取人の変更をしておきましょう。
まとめ
生命保険は、受取人を誰にするかによって相続税の金額が大きく変わります。
受取人のことを考えて加入したとしても、結果的に相続税が高くなるということもあります。
相続税対策などで、生命保険に加入する場合は、保険契約をする前になるべく早く弁護士等の専門家に相談しましょう。