相続手続きの期間制限(時効)とは?各種手続をいつまでに行うか徹底解説
相続手続きいざ相続が開始されると、各種の手続を行っていく必要が出てきます。
そうした相続の様々な手続には、期間制限(時効)があります。
ところが、その期間は様々に異なるもので、ついうっかりしているうちに期間が過ぎてしまった、ということも起こり得るのです。
相続の開始に伴って、どのような手続を行わなければならないのか。
それらの手続はいつまでに行わなければならないのか。
今回は、そのようなわかりにくい相続絡みの手続と、その期間制限について解説しましょう。
目次
1.相続と時効
(1)時効とは
まず、時効とは何かを簡単に確認しておきましょう。
時効とは、一定の事実状態が一定の期間継続した場合において、その事実状態を尊重する見地から、実際の権利関係がどうであるかを問わずに権利を得たり喪ったりすることを認める制度をいいます。
時効には次の2つがあります。
- 消滅時効 → 一定期間の継続により権利を喪う場合
- 取得時効 → 一定期間の継続により権利を得る場合
相続と時効において、特に問題となるのは消滅時効です。
権利を喪うということは、何かができなくなるということですので、トラブルが生じやすいのですね。
相続財産が得られなくなったり、相続財産の割合が大幅に少ないまま確定してしまったり、といったことの起こらないように気をつけなければなりません。
(2)時効類似の期間制限
相続に絡んで、時効そのものではありませんが、時効類似の期間制限も存在します。
これらは時効とは細かな部分で効果が異なるものです。
- 熟慮期間 → 相続の放棄・承認を選択することのできる期間
- 除斥期間 → 一定期間の経過によって権利が消滅するという期間
特に除斥期間は、長年の経過後に紛争の蒸し返しなどを生じさせないようにするため、取引安全などの見地から権利を確定させるものです。
このため、中断や停止がない、当事者による援用が不要、遡及効が認められないといった特徴を有します。
(3)相続手続と問題となる時効
相続手続に絡んで時効が問題となる場面というのは、「相続財産の放棄・承認」「相続財産の割合」「相続税等の税金」の3つです。
いずれも放置しておくことで、手に入るはずの財産が手に入らなくなったり、ペナルティとしての加算税が課されたりといった問題が発生しますので、注意が必要です。
時効などが問題となる相続関連の手続は、次のとおりです。
- 遺産分割請求
- 相続放棄
- 承認(単純承認・限定承認)
- 相続回復請求
- 遺留分減殺請求
- 相続登記
- 相続税申告
2.時効等が問題となる手続
手続を行うのに一定の期間が定められているもの、期間は定められていないけれども問題となるものを挙げてあります。
順に確認していきましょう。
(1)遺産分割請求
遺産分割請求とは、遺言書がない場合に、共有となった相続財産を分けるための遺産分割協議を開催してほしい、と請求することをいいます。
この遺産分割の請求には、時効はありません。
相続財産の共有状態が続く限り、いつでも、いつまでも請求をすることが可能です。
しかし、遺産分割請求を行わないままでいると、不動産が共有状態のままとなるので、相続税や固定資産税の支払いなどが面倒なことになったり、あるいは債権の消滅時効が過ぎてしまったり、といった問題が生じます。
(2)相続放棄
相続放棄とは、相続人が相続財産の一切を引き継がないことをいいます。
債務のほうが多い場合や、家業を継ぐ相続人に財産を集中させたい場合などになされます。
相続放棄には、熟慮期間があります。
原則としては、相続の開始があったことを相続人が知った時から3ヵ月以内に行わなければなりません。
これは家庭裁判所への申述という方法で行います。
なお、この熟慮期間は利害関係人または検察官の請求により伸長することが可能です。
予め放棄しておくことはできないので、注意が必要です。
(3)承認
相続の承認には、単純承認と限定承認があります。
単純承認とは、相続人が相続財産の一切を引き継ぐことをいいます。
限定承認とは、相続人が相続財産の限度において引き継ぐことをいいます。
限定承認は、財産総額がトータルでプラスなのかマイナスなのかがわからないときに行われるものです。
債務があれば金銭や債権と相殺した上で、なおプラスの財産が残ればそれを相続します。
相続の承認にも、熟慮期間があります。
原則としては、限定承認は相続の開始があったことを相続人が知った時から3ヵ月以内に行わなければなりません。
共同相続人がいる場合は、その全員の共同で行います。
なお、この熟慮期間も利害関係人または検察官の請求によって伸ばすことが可能です。
3ヵ月以内に相続の放棄も限定承認も行わなかった場合、単純承認を行ったものとされるので、ここは特に注意しなければなりません。
(4)相続権回復請求
相続回復請求とは、本来相続人ではないのに何らかの理由で相続人らしく見える者が財産を相続した場合に、相続人が財産の返還や相続人としての地位の回復を請求することをいいます。
相続人だと思ったら実は廃除されていた、などといったケースがそれに当たります。
相続回復請求権には時効があります。
原則としては、相続権の侵害の事実を知った時から5年間以内に請求する必要があるのです。
また、除斥期間として、相続の開始があってから20年間が経過した場合にも権利の行使はできなくなります。
時効を中断するには、内容証明郵便によって侵害者に通知を行う必要があります。
(5)遺留分減殺請求
遺留分減殺請求とは、遺言による相続の内容が、一定の法定相続人に保証される財産としての遺留分を侵害するものだった場合に、遺留分に該当する財産を請求することをいいます。
遺留分減殺請求権にも時効があります。
原則としては、相続の開始と、遺留分の侵害に当たる贈与ないし遺贈があったことを知ってから1年間以内に請求しなければなりません。
また、除斥期間として、相続の開始があってから10年間が経過した場合にも権利の行使はできなくなります。
時効を中断するには、内容証明郵便によって遺留分の侵害者に通知を行う必要があります。
(6)相続登記
相続登記とは、相続した不動産の名義を書き換えることです。
これには時効はなく、いつまでも可能です。
しかし、登記をせずに放置しておくと、権利関係の複雑化や資料の散逸などにより、登記を行うことが困難となる場合があります。
また、その不動産を使用収益することができず、資産として意味をなさなくなってしまいかねません。
権利を確定させるためにも、登記は早めに行っておくべきといえます。
(7)相続税・所得税申告
相続税と所得税に関しては、申告期限があります。
相続税は、被相続人の死亡を相続人が知った日の翌日から10ヵ月以内に支払う必要があります。
除斥期間は原則5年10ヵ月であり、不払いが悪質だと判断される場合には7年10ヶ月となります。
所得税は、被相続人の死亡を相続人が知った日の翌日から4ヵ月以内に支払う必要があります。
除斥期間は原則5年4ヵ月です。
これらは支払わずに期限を渡過することによって、ペナルティとしての延滞税や加算税が課されることがあります。
3.相続が開始したら時効に注意
相続が開始されると、一気に様々な手続が目の前に立ち現れます。
数ヶ月というのは、葬儀や遺言、財産の調査、遺産分割協議などを行っているとあっという間に過ぎてしまいます。
そのため、自分で備えておくべきことと専門家に依頼すべきことに分け、なるべくスムーズに動けるよう準備しておくのが望ましいといえます。
(1)自分で備えておくべきこと
相続に関する各手続には、被相続人の死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などといった、共通する必要書類があります。
また、生命保険や損害保険に関する証書や納税に関する書類など、被相続人の勤務先から取得しなければならないものもあり、中には数ヶ月掛かることもあります。
時効や熟慮期間はそれぞれ異なるので、早く期限が到来するものとまだ猶予のあるものとに分けた上でスケジューリングをしておくことも有効です。
(2)専門家に任せたほうがよいこと
時効や熟慮期間は、最短で3ヵ月と非常に短いものもあります。
相続でバタバタと立て込んでいるうちに過ぎてしまいかねないものであり、財産の相続が一度確定してしまうと、基本的にはやり直しが利きません。
とはいえ、財産の整理や目録などが不十分だと、財産を単純承認したものか限定承認したものか、それとも放棄したものかといった選択は難しいものです。
このような時は、期間の伸長の手続なども考慮した上で、弁護士などの専門家に一任するのも手でしょう。
弁護士に依頼する際の相場としては、実費を除き、比較的簡易な通知などの手続であれば5万~10万円、登記などの手続に関しては10万~30万円、相続の際の訴訟を伴う手続であれば20万~50万円ほどとなります。
また、これらはあくまでも目安であり、対象となる財産総額によっても変わってくるため、個別具体的な事情を踏まえた上でお問い合わせしてみるといいでしょう。
まとめ
相続の開始には、一般的に予想されるような葬儀などだけではなく、普段はあまり意識しないような様々な手続を伴うものです。
また、これらの手続について、いちいち期限がいつまでだという連絡が事前に来るわけでもありません。
しかし、忘れてしまったら本来相続できていたはずの財産が相続できない、延滞税や加算税といったペナルティを課される、などの問題が生じます。
こうしたことについて心配だという場合は、確実に対処するためにも専門家へご相談を行うことをお勧めします。
重要なのは、予めできることをしておくということです。
特に財産の目録などは遺言書などと共に生前から用意しておくことで、いざという時にも慌てずに手続きを済ませられることでしょう。