養子が遺産を相続する際の手続きや注意点を詳しく解説
相続人 / 相続財産養子の相続に関しては、自分が養子の立場なのか、それとも養親の立場なのかによって、問題となる点が変わってきます。
また、民法の制度と相続税法の制度での取り扱いも異なるといった、複雑さがあるものです。
今回は、相続の可否を左右するのはどんなときなのか、養子の相続はどうなるのか、といった、相続と養子に絡む疑問について解説していきます。
1.相続と養子について
(1)養子の意味とは
①実子とどう違うか
実子とは、親と血縁関係のある子供であり、いわゆる「血を分けた子供」のことをいいます。
これに対して養子とは、血縁関係とは無関係に親子関係を生じさせた場合の、その子供をいいます。
実子は「嫡出子」と「非嫡出子」に分けられます。
このうち、法律上の婚姻関係のある男女の間に生まれた子供を嫡出子、そうでない子供は非嫡出子といいます。
養子は嫡出子の身分となります。
②養子となるケース
養子となるケースには様々な事情がありますが、主要な場面としては次の4つが挙げられるでしょう。
- 男子を跡継ぎとするための婿養子
- 再婚した場合の連れ子の養子
- 相続税の節税のための節税養子
- 甥・姪、親戚などの養子
どの場合にも、相続との関連で問題となります。
養子となっているか、すなわち法定相続人となれるかどうかにより、遺留分減殺請求権などの有無が変わるためです。
③養子縁組について
血縁関係と関係なく親子関係を生じさせる制度を、養子縁組といいます。
この養子縁組には、普通養子縁組、そして特別養子縁組があります。
この2つは相続の場面においても取り扱われ方が異なってくるので、注意が必要です。
- 普通養子縁組
実の親との関係が戸籍の記載上に残る養子縁組を、普通養子縁組といいます。
実親と養親とで、親子関係の二重状態が生じている形となります。
養親と養子の合意に基づいて、本籍地または居住地の市区町村に養子縁組の届け出を行うことで成立します。
なお、養子となる者が15歳未満だった場合、法定代理人の承諾も必要となります。
- 特別養子縁組
実の親との関係が戸籍上も絶たれ、実子同様の扱いとなる養子縁組を、特別養子縁組といいます。
戸籍上の記載も、実子と同じとなります。
家庭裁判所で審判を受けることによって成立します。
関係性が絶たれることから、原則として実の親の同意も要します。
(2)養子縁組と親族関係
養子縁組により、養親・養親の親族・養子間に血族関係が生じます。
特別養子縁組の場合、養子と実親との親族関係はそこで終わります。
なお、養親と、養子の血族だった者との間には、血族関係は生じません。
(3)法定相続人
その結果として、養子は養親の法定相続人ということになります。
実親との関係は、以下の通りです。
- 普通養子縁組 → 相続人になる
- 特別養子縁組 → 相続人にはならない
(4)代襲相続
養子が養親より先に死亡したという場合に問題となってくるのが、養子の子が代襲相続できるかどうかです。
代襲相続というのは、相続人が被相続人より前に死亡している場合などに、相続人の子や孫が、相続人だった死亡者の代わりに相続人となることです。
この場合、養子縁組前に生まれていた子については代襲相続ができません。
他方、養子縁組後に生まれた子は代襲相続ができるという結論となります。
養子縁組の前に生まれていた子であれば、養親との間に法定血族関係が生じないためです。
2.相続税と養子
養子縁組を行う理由の一つとして、相続税の節税が挙げられます。
いわゆる節税養子のことですが、この仕組みについてみていきましょう。
(1)養子と相続税対策
養子とすることにより法定相続人が増え、結果的に節税対策となるケースがあります。
これは基礎控除額の増加と累進課税率の減少、非課税枠の増加という相続税法上の効果があるためです。
そもそも相続税対策としての養子縁組が認められるか、という問題もありましたが、これについて最高裁は平成29年1月31日、専ら相続税対策を目的とする養子縁組でも、直ちに無効とはならない、と判示しています。
参考:養子縁組無効確認請求事件 平成29年1月31日 第三小法廷判決
(2)基礎控除額の増加・累進課税率の減少
養子縁組によって養子となった者は、法定相続人となります。
相続税法上、法定相続人の数により、基礎控除の額が変化します。
計算式は次のように示されます。
基礎控除額=【3000万円+600万円×法定相続人の数】
ただ、この計算通りに行くとすれば、養子を際限なく増やすことで基礎控除額の上限をなくすこともできてしまいます。
それを防ぐため、相続税法においては、基礎控除額の算定をする上で法定相続人として扱われる養子の数に制限を設けているのです。
その制限について具体的には、被相続人に実子がいる場合ならば一人まで、いない場合ならば二人まで、という定めがあります。
なお、これはあくまでも相続税法での取り扱いであり、民法上は全て法定相続人として扱われます。
また、基礎控除額が増えることで、相続財産の総額が結果的に減ります。
相続税は累進課税なので、課税の対象となる財産の総額が減れば税率が下がる場合もあります。
(3)生命保険金・死亡退職金の非課税枠
生命保険金や損害保険金、死亡退職金に関しては、非課税枠が存在します。
生命保険金・損害保険金については、保険料の全部または一部について被相続人が支払っていたものが相続税の課税対象となり、法定相続人の数によって非課税枠が定まります。
死亡退職金については、被相続人が死亡してから3年以内に支給が確定したものが相続税の課税対象となり、法定相続人の数によって非課税枠が定まります。
いずれも、計算式は次のように示されます。
非課税限度額=【500万円×法定相続人の数】
この法定相続人の数についても、含められる養子の数に関し、基礎控除額の算定の場合と同様の制限が設けられていることに注意が必要です。
(4)孫養子の場合の加算
節税対策としての養子縁組ですが、必ずしも相続税が安くなるばかりではありません。
代襲相続ではなく、被相続人にとっての孫を養子にすると、相続税が2割加算されます。
これは相続税法上、孫養子は一親等の血族として扱われないためであり、相続税が1回分だけ免れられることとのバランスから採用されている制度です。
したがって、相続税対策としての孫養子は、本当に得かどうかをきちんと見定める必要があります。
3.養子縁組の注意点
養子縁組をする際に、相続との関係で注意しておくべき点もあります。
(1)相続トラブルの可能性
養子縁組は、養子と養親、養子の法定代理人(実親など)の間での合意さえあれば成立してしまいます。
そのため、実子や他の相続人の関知しないところで、いつの間にか養子縁組が行われていることも考えられます。
そうなると、実子や他の相続人にとっては、いわば不意打ち的に相続財産が分割されてしまうこととなるため、トラブルになることもあります。
そこで、養子縁組は相続人となり得る者に対して予め周知しておくことが望ましいといえるでしょう。
(2)相続権と扶養義務
養子は相続の権利を得ますが、同時に養親の扶養義務も生じます。
特に普通養子の場合、実親と養親のどちらに対しても扶養の義務があることとなります。
養子の立場からは受益ばかりがあるわけではないので、養子縁組の際には承知しておく必要があります。
(3)養親子間の関係が悪化した場合
婚姻にも離婚となる場合があるように、人間同士の関係ですから悪化することもあり得ます。
ですが、養子縁組の解消には手間が掛かります。
特別養子縁組の場合、実親との親族関係が絶たれるわけですから、容易に養子縁組の解消も認められず、家庭裁判所の審判によらねばなりません。
関係悪化後に相続が問題となるのであれば、遺言書によって相続させないことも可能です。
これは他の相続人を相続させない場合と同様です。
(4)死後離縁の手続
養子本人が亡くなっている場合に、相続の手間を避けるため死後離縁するというケースもあります。
たとえば、養子の配偶者と折り合いが悪くなっていた場合など、遺産分割協議書に実印が必要となり、手間が掛かることがあります。
こうしたとき、養子本人が死亡していても手続きによって死後離縁が可能です。
手続の流れとしては、管轄の家庭裁判所に申立を行い、審判を受け、確定証明書を受け取った後に養親の本籍地の市町村役場へ離縁届を提出する、というものです。
必要書類は次のとおりです。
- 養親の戸籍謄本
- 養子の戸籍謄本(死亡記載のあるもの)
- 申立人の認印
- 本人確認書類
- 収入印紙
- 養親の認印
- 養子離縁届
4.養子が相続する場合、養子に相続させる場合
(1)養親・養子が行っておきたいこと
養子縁組をする際には、相続人同士の諍いを避けるためにも他の相続人への周知を行っておくのが望ましくあります。
また、養子も法定相続人となりますが、被相続人の遺志を明確にしておくためにも遺言書の準備をしておいたほうがいいでしょう。
(2)専門家に任せたほうがいいこと
相続トラブルとなった場合には、相続人同士での話し合いが感情のもつれを生み、なかなかまとまらないこともあります。
そうした場合には、冷静な第三者としての専門家の介入により、論点を整理して争いを治めることが可能となります。
あるいは、代襲相続など相続関係が複雑化したケースや、相続税対策としての養子縁組のケースにおいても、解決に専門的知識を要することがあります。
なお、養子縁組の手続に関する費用としては、弁護士手数料が10万~30万円程度、裁判離縁となると着手金が30万~50万円程度というのが大体の相場となります。
まとめ
養子は法定相続人となりますが、普通養子縁組と特別養子縁組とで変わる場合もあります。
また、養子の子供が生まれるタイミングによって代襲相続の可否が変わるなど、状況によって相続できるかどうかも変わってくることもあります。
きちんと相続できるのか、トラブルなく相続できるようにするためにはどうすればいいのか、といったことについては、個別具体的な事情を踏まえて検討する必要があります。
心配がある場合は弁護士などへご相談なさるといいでしょう。