貸家建付地を相続した際の賃料や相続税の評価額など詳しく解説
相続税 / 贈与税亡くなられた方(被相続人)がアパート経営等をしていた場合、相続した土地は「貸家建付地」となります。
貸家建付地であれば、土地の評価額が下がることから、節税対策の有効手段として活用されています。
しかし、いざ貸家建付家を相続するとなると、「アパートの賃料は誰が相続するのか」、
「アパートを売却する場合はどうしたらいいのか」、あるいは「空き室があっても評価額の減額は認められるのか」といった様々な疑問や問題が生じてきます。
そこで、今回は貸家建付家を相続した際の賃料や評価額について詳しく解説します。
目次
1.貸家建付地とは
貸家建付地とは、所有する土地にアパートやマンション、貸しビル等を建て、それを他人に貸している土地のことをいいます。
他人に貸していることで土地の利用を大幅に制限されることから、通常の宅地(自用地)に比べ土地の価値が低く評価され、ここから相続税を節約する有効手段として広く利用されています。
ではどの程度、評価額が低くなるのでしょうか。
(1)貸家建付地の評価額
貸家建付地の評価額は
土地の評価額(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
という数式で算出されます。
借地権とは賃借権や地上権など土地を利用する権利のことで、財産的な価値が認められています。
この借地権の価格が、土地の価格の何割程度を占めるのかを数値化したものが借地権割合です。
借地権割合は、国税庁のホームページ(財産評価基準書路線価図・評価倍率表)に掲載されている「路線価図」で確認することができます。
地域によって割合は異なりますが多くの地域が60〜70%の割合となっています。
これに対し、建物の価格に占める借家権の割合を示したのが借家権割合です。
借家権割合は、全国一律に30%とされています。
最後に、節税対策でアパート経営をしている場合に重視されるのが「賃貸割合」です。
賃貸割合とは平たく言えば「入居率」のことです。
例えばアパートの全室が満室であれば、賃貸割合は100%となり、かなりの節税効果が期待できます。逆に全室が空き室であれば賃貸割合は0%となります。
では、実際に計算してみましょう。
5000万円の土地の上に、全10室のアパート(固定資産評価額は1000万円)を経営しているとします(借地権割合は70%、10室すべて入居中)。
この貸家建付地の評価額は
5000万円(1-70%×30%×100%)=3950万円となり、自用地よりも1050万円も低く評価されることになります。
一方アパートなどの貸家の場合、建物の評価額(固定資産評価額)も、借家割合(30%)と賃貸割合分だけ低くなります。
本ケースでは1000万円×(1-×30%×100%)=700万円となり、土地とあわせれば1350万円も評価額が減少します。
このように、アパート経営がうまくいけば、自用地を建家貸付地に変換することは、相続税を節約する上で有効な手段となりえます。
また、一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例も適用され、さらなる節税効果が期待できます。
(2)小規模宅地の特例
アパートやマンションなど、不動産を貸し付けて収益をえる事業に利用されている土地を「貸付事業用地」といい、一定の要件を満たせば、小規模宅地の特例が適用され、面積200㎡までなら土地の評価額が5割も減額されます。
適用を受ける要件は下記の3点です。
- 相続税の申告までに貸付事業(アパート経営)を引き継ぎ、かつ貸付事業(アパート経営)を継続していること。
- その土地を相続税の申告まで売却せずに保有していること。
- 相当の対価を得ていること。
上記の要件を満たせば、貸家建付地の評価減に加え、小規模宅地(貸付事業用地)の特例も受けることができるので、かなりの節税となります。
先の例でも、5000万円の土地が貸家建付地として3950万円に減額され、
さらに貸付事業地の特例の適用で3950万円×50%=1975万円まで評価をさげることができます。
このように要件を満たせば、貸付事業用地の特例と貸家建付地の評価減を併用することができるので、大幅な節税効果が期待できます。
ただし、相続時に空き室があった場合は注意が必要です。
(3)空き室がある場合の土地の評価額
相続税の申告時に、アパートの一部が空き室であった場合、その空き室部分は、貸家建付地としては評価されず、自家用地としての評価を受けてしまいます。
当然、その部分は貸付事業用地の特例も適用されませんので、評価額が上がってしまうことになります。
ただし、空き室が一時的な状態であると判断されれば、貸家建付地として評価され、なおかつ貸付事業用地の特例の適用も受けることもできます。
空き室が一時的なものどうかについては、国税庁のホームページ(貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲)に判断基準が紹介されています。
それによれば
- 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること
- 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集を行い、空き室を他の用途に使用していないこと
- 空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であること、
- 課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと
などを総合的に考慮して判断するとされています。
もっとも、空き室期間が1年以上あっても、入居者を募集し、いつでも入居できるよう適切に管理をしていたなどの事情があれば一時的な空室として認められるとした裁決も存在します。
空き室期間が1か月以上あっても諦めずに専門家に相談するとよいでしょう。
以上が貸家建付地の評価額についての解説になります。
この他にも、アパート経営をしている建家貸付地を相続人した場合、どのような、問題が発生するのでしょうか。
次項以降で詳しく見ていくことにします。
2.賃貸アパートの賃料は誰が相続するのか
まず、問題となるのかアパートの賃料です。
アパートの賃料は、遺産分割の前後によって帰属先が異なります。
相続開始から遺産分割前までに発生した賃料は、相続人が法定相続分に応じて取得するとされます(最高裁平成17年9月8日判決)。
これに対し、遺産分割後は、遺産分割によりアパートを取得した相続人に帰属することになります。
次に、相続人から賃借人に賃料を請求する場合、どのような手続きが必要となるのでしょうか。
賃貸人が亡くなると、賃料の振り込み先となっていた預金口座は凍結されてしまいますので、速やかに振込口座の変更と、賃貸人の変更を賃借人に通知する必要があります。
3.賃借人を立ち退かせて、賃貸物件を売却することはできるか
アパート経営が芳しくない等の理由でアパートを売却する必要が生じた場合、ただちに賃借人に立ち退いてもらうことは可能でしょうか。
賃借人は、借地借家法という法律によって手厚く保護されているため、3か月以上の賃料の不払いなど信頼関係を破壊すると認められる事由がない限り、立ち退きを要求することはできないのが原則です。
また、賃貸借期間が満了しても、正当な事由がない限り、賃貸借契約は継続されることになります。
仮に、正当な事由があったとしても、契約期間満了の1年前から6か月前までに、契約を更新しない旨の通知をする必要があります。
本ケースのようにアパート経営が芳しくないというだけでは正当な理由として認められる可能性が低いと思われます。
この場合は、立ち退き料を払うことで、賃借人に立ち退きの合意を得るか、あるいは訴訟に発展した場合には、立ち退き料を支払うことを条件に正当事由を認めてもらう必要があります。
まとめ
貸家建付地の相続は、賃料の帰属や、賃借人の権利、相続税の評価額など高度に専門的な知識が要求される複合的な問題が絡むため、相続手続きだけでなく相続財務にも精通した弁護士に相談するのが得策です。