寄与分を主張したい場合の手続きと、確実に寄与分を認めてもらう方法を解説!
寄与分 / 特別受益遺産相続が起こったとき、自分が法定相続人になっていたら遺産相続権がありますが、遺産の維持形成に特別に貢献していた場合には、寄与分が認められます。
寄与分を認めてほしい場合には、どのように手続きを進めれば良いのでしょうか?また、寄与分を確実に認めてもらうには、どのようなことに工夫をすれば良いのかも知っておくと役立ちます。
そこで今回は、寄与分を主張する方法と、確実に寄与分を認めてもらうための方法を解説します。
目次
1.寄与分とは
寄与分とは、相続人の中に、遺産の維持形成に特別に貢献した人がいる場合、その人の遺産取得分を増やすことです。
たとえば、相続人の中に、被相続人の介護療養に献身的に取り組んだ人がいる場合や、被相続人が経営していた事業を、無給に近い状態で手伝っていた場合などに寄与分が認められます。
寄与分が認められると、その相続人の遺産取得分がその分他の相続人より増えます。
2.寄与分は自分で主張する必要がある
特定の相続人に寄与分がある場合、それを誰がどのようにして決定するのかが問題です。
寄与分については、誰かが主張しない限り、自然に適用されて計算されるものではありません。そこで、寄与分を認めてほしい場合には、まずは自分から寄与分があることを主張する必要があります。
たとえ相続人の中に、献身的に被相続人の介護に取り組んでいた人がいたとしても、その人自身が何の主張もしなかったら、寄与分はないものとして遺産分割がすすめられてしまいます。
自分の寄与分を認めてもらいたい場合には、まずはその権利主張をするところから始める必要があります。
3.まずは遺産分割協議で主張する
寄与分を認めてほしいならその主張をしなければなりませんが、具体的にはどのような形で主張すれば良いのかが問題です。これについては、まずは遺産分割協議の場で主張することになるのが普通です。
遺産相続が起こった場合、相続人が全員集まって遺産分割協議を行います。
このとき、具体的に誰がどの遺産を取得するのかについて話し合って決めますが、自分に寄与分があると考える人は、遺産分割協議の際に、寄与分の内容を具体的に主張して、他の相続人に寄与分の存在と内容を認めてもらう必要があります。
このとき、「寄与分がある」というだけではなく、どのような寄与分があるのか、またその寄与分の評価はどのくらいになるのか、というところまできっちり主張・説明する必要があります。
たとえば、10年間、献身的に被相続人の介護にあたってきた相続人がいる場合であれば、
➀ 10年間、働きにも行かず結婚もせず、ほとんど1日中介護に専念してきた
② その評価は、介護報酬を参考にして、日額5000円として計算し、1825万円をすべきである
などの主張をします。
そうすると、他の相続人は、まずそもそも寄与分の存在自体を認めるのかどうか(①の問題)、認めるとしたら、評価をどのように行うのか(②の問題)について検討することになります。
他の相続人が、そもそも寄与分があることを認めなければ、遺産分割協議で寄与分を認めてもらうことは難しくなります。
寄与分があること自体は認めてもらえても、評価の方法に納得してもらえない場合には、他の相続人がどのように寄与分を評価するのかという対案を出してもらい、再検討していくことになります。
たとえば、他の相続人が「プロの介護人ではないし、被相続人とは親子なのだから、寄与分の評価は介護人の半額とすべき」と主張して、寄与分の評価を912万円と主張してくるかもしれません。
このような場合、寄与分の主張者が、912万円の評価に納得をしたら、その内容で遺産分割を行うことができます。
反対に、寄与分の評価について、双方にどうしても折り合いがつかない場合には、遺産分割協議で寄与分を決めることはできません。
4.遺産分割調停で主張する
遺産分割協議では、寄与分についての考え方に合意ができない場合には、寄与分を認めてもらうために遺産分割調停をする必要があります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所における調停手続きを利用して、遺産分割の方法を決める手続きです。
調停を利用すると、家庭裁判所の調停委員が間に入って話し合いをすすめてくれるので、意見が対立している相手方本人と直接顔を合わせて話合いをする必要がなく、遺産分割協議で他の相続人と険悪になってしまった場合でも、スムーズに話し合いをすすめることができます。
相手が頑なに寄与分を認めなかった場合であっても、調停委員が間に入って相手を説得することにより、寄与分を認めてくれるようになることもありますし、寄与分の評価について対立がある場合には、双方の主張の間をとる方法などによって、話合いの決着をつけることができるケースもあります。
たとえば、寄与分の主張者が1825万円の寄与分を主張していて、他の相続人が912万円の寄与分しか認めないと言っている上記の事案において、間をとって1300万円の寄与分とすることはどうか、などと提案してもらえます。これについて、双方が歩み寄ることによって合意ができれば、その内容で寄与分を認めてもらい、遺産分割調停が成立して遺産分割ができます。
5.遺産分割審判で寄与分の申立をする
遺産分割調停をしても、当事者の意見がどうしても合わず、寄与分を認めてもらえないことがあります。
その場合には、遺産分割調停は不成立となり、手続きは自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判は、審判官(裁判官)が、遺産分割の方法を決定してしまう手続きであり、当事者が話し合いによって寄与分を決めるものではありません。
寄与分を認めてもらうには、遺産分割審判が始まってから同時に寄与分の申立をして、審判官に寄与分の有無と評価額を判断してもらう必要があります。
遺産分割審判の手続きにおいて、寄与分があることと、その評価を適切に主張し、立証することができたら、審判によって寄与分を認めてもらうことができます。
反対に、寄与分があることとその評価について適切に主張立証することができなければ、寄与分を認めてもらうことはできず、法廷相続分通りに遺産分割が行われる可能性もあります。
遺産分割審判になった場合には、どれだけ法的に整理された明確な主張を行い、どれだけ適切な証拠を提出できるかが重要となります。
6.具体的な主張と証拠が必要
寄与分を主張する際に、確実に寄与分を認めてもらうには、遺産分割協議、調停、審判のどの手続きにおいても、具体的に寄与分の根拠となる事実を主張し、適切な証拠を用意することが重要です。
話合いの段階においても、単に相続人の1人が「寄与行為があった」と主張しているだけでは、他の相続人は耳を傾けてはくれません。
具体的に、「10年間自宅で結婚も仕事もせずに介護を続けてきた。介護の内容は、朝から晩まで、…のとおりであった」など、説明することが必要です。
また、そのことを示す資料もできるだけ多く示すことが重要です。このように、具体的に説明をすることによって、他の相続人も納得しやすくなり、合意がしやすくなります。
主張と立証は、審判になるとなおさら重要です。審判では、法的に適切に主張が行われていないことや証拠がないことは認められないので、これらの具体的な主張と立証が必須となってくるからです。
寄与分があるとき、どうしても感情に流されて「寄与分がある」「寄与分が認められるはずだ」などと抽象的な主張になりがちですが、冷静に主張と立証方法を整えることが、有利に手続きを進めることができるので、覚えておきましょう。
7.適切に寄与分の主張をすればトラブルにもなりにくい
寄与分の主張が行われると、遺産分割がトラブルになりやすいです。しかし、適切に主張と立証が行われた場合、他の相続人も納得しやすいですし、完全に納得しなくても「勝手なことばかり言っている」と思われて立腹されることは少なくなります。
お互いに、抽象的・感情的な言い合いになると遺産トラブルの収拾がつかなくなりますが、具体的・理論的な話合いをすれば、遺産トラブルのリスクも下がります。
今回の記事を参考にして、上手に寄与分を主張して、確実に認めてもらえるようにすすめましょう。