相続税申告の手続きと納税方法について詳しく解説
相続税 / 贈与税平成27年1月1日から相続税の基礎控除が下げられたため、相続税を申告して支払わなければならない家庭が大幅に増えました。
これから相続税申告をしなければならない方も多くおられるでしょう。
相続税は誤りなく期限内に申告しないと、高額な延滞税を課される可能性もあります。
今回は、相続税申告の手続きと納税方法について、わかりやすく解説します。
目次
1.簡単な相続税の計算方法
相続が発生したら、まずは相続税を計算しなければなりません。
以下で、相続税の計算方法を説明します。
(1)遺産の特定と評価を行う
相続税の計算をするときには、まずは遺産の特定が必要です。
相続財産には、不動産や預貯金、現金などの他、生命保険の死亡保険金や簡易保険の特約還付金なども含まれます。
生命保険金については、民法上の相続財産にならないので遺産分割の対象になりませんが、相続税の課税対象になるという特殊な扱いをされているので、そういったものを見逃さないようにしましょう。
また、遺産の評価も重要です。
遺産に土地が含まれている場合などには、土地の評価が適正にできず、評価を高く見積もりすぎて相続税の払いすぎが起こることも多いので、正確に評価しましょう。
(2)基礎控除を差し引く
遺産の特定と評価を行い、遺産の総額を確定できたら、そこから相続税の基礎控除を差し引きます。
そうして算出できた金額が、課税対象価格です。
相続税の基礎控除は、以下の通りです。
3000万円+法定相続人の人数×600万円
たとえば、2億4800万円の遺産がある場合、法定相続人が3人ならば、基礎控除は4800万円となるので、課税対象の価格は2億円となります。
(3)法定相続分によって按分する
課税対象価格が計算できたら、その金額を法定相続分に従って按分します。
たとえば、2億円の遺産があって、妻と子ども2人が相続する場合には、妻の分が1億円、子どもそれぞれの分が5000万円となります。
(4)相続税率をかけて、相続税の総額を計算する
各自の相続分を計算したら、それぞれに対し、相続税率をかけ算します。
相続税の税率は、以下の通りです。
課税対象価格 |
相続税率 |
控除額 |
1000万円以下 |
10% |
|
3000万円以下 |
15% |
50万円 |
5000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
2億円以下 |
40% |
1700万円 |
3億円以下 |
45% |
2700万円 |
6億円以下 |
50% |
4200万円 |
6億円超 |
55% |
7200万円 |
たとえば先の例の場合、妻の相続分にかかる税金が1億円×30%-700万円=2300万円、子どもそれぞれの相続分に対する税金が、5000万円×20%-200万円=800万円となります。
このケースでかかる相続税の総額は、2300万円+800万円+800万円=3900万円となります。
(5)各自の相続割合に応じて配分する
相続税の総額を計算できたら、その金額をそれぞれの相続人の相続割合に対して配分します。
たとえば先の例で、妻が2分の1の1億円、子どもたち2人がそれぞれ4分の1の5000万円相続する場合、妻の相続税は3900万円×2分の1=1950万円、子どもたちそれぞれの相続税は3900万円×4分の1=975万円となります。
(6)控除を適用する
最後に、控除できる場合には控除を適用します。
先の例では、妻が配偶者控除を受けることができるので、妻に課税される1950万円は0円となります。
相続税は、子どもたちそれぞれの975万円ずつのみという結果になります。
2.相続税の申告方法
相続税を申告するときには、税務署に対して「相続税の申告書」を提出します。
提出先の税務署は、死亡した人の住所地を管轄する税務署です。
相続人の住所地の税務署ではないので、注意が必要です。
相続税は、各自の相続人が自分の分の相続税について、申告を行う必要があります。
他の相続人が申告をしたから自分は申告しなくて良い、ということにはなりません。
ただ、連名で全員分の相続税を申告することも可能です。
また、相続税申告の際には、以下のような書類を添付して提出しなければなりません。
- マイナンバーを確認できる住民票やマイナンバーカード、通知カードの写し
- 運転免許証やパスポートなどの本人確認書類
- 死亡した人の出生から死亡するまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- 遺言書(ある場合)や遺産分割協議書の写し
- 相続人全員分の印鑑登録証明書
その他、財産評価の計算の基礎とした資料や計算書等が必要になることもあります。
3.相続税の申告書記入方法
相続税の申告書は、どのように作成したら良いかわからないという方も多いので、以下でご説明します。
相続税の申告書は、1表から15表まであります。
ただ、すべてが必要になることは少なく、ケースに応じて必要な表のみを作成して提出したら足ります。
また、1表から順番に作成していくということでもありません。
以下で、手順を追って確認していきます。
(1)遺産内容の明細書を作成する
遺産の内容の明細書を作成する必要があります。
まずは、生命保険金と死亡退職金の計算から始めましょう。
このとき使うのは、以下の表です。
- 第9表「生命保険金などの明細書」
- 第10表「退職手当金などの明細書」
それぞれ、生命保険金がある場合、退職手当金がある場合に作成が必要です。
こうした受取金に対しては、相続税が課税されるのですが、非課税枠があります。
正しく計算をして記入しましょう。
次に、小規模宅地の特例についての明細書を作成します。
小規模宅地の特例とは、被相続人と生計を共にしていた親族が居住用や事業用に使う宅地を相続する場合に適用される相続税評価額の減額特例です。
以下の表に計算内容を記入します。
- 第11表・11の2表の付表1~4「小規模宅地等についての課税価格の計算明細」
上記が完成したら、その内容をもとに、相続税がかかるすべての財産についての明細書を作成します。
このとき使うのは、以下の表です。
- 第11表「相続税がかかる財産の明細書」
ここには、生命保険金、死亡退職金、不動産を始めとして、相続するすべての遺産について、記載する必要があります。
これで、プラスの遺産の集計ができます。
(2)債務の差引と贈与分の加算をして、課税対象額を確定する
相続税を計算するときには、相続した債務や葬儀費用を差し引くことができます。
そこで、第13表に、その明細を記載します。
- 第13表「債務及び葬式費用の明細書」
また、相続開始前3年以内に受けた贈与財産があると、それは相続税課税の対象になります。
そのようなものがある場合には、14表に記載します。
- 第14表「相続開始前3年以内の贈与財産等の明細書」
これらのプラスの遺産、マイナスの負債や葬儀費用、3年以内の贈与財産の計算がすべて終了したら、そうまとめの価格表を作成します。
それは、第15表です。
- 第15表「相続財産の種類別価額表」
ここには、現金や預貯金や生命保険や不動産などの遺産の種類ごとに、評価額を書き込んで表にします。
以上ができたら、第一表「相続税の申告書」の「課税価格」を記入します。
(3)相続税額を計算する
課税価格が計算できたら、それを元に、実際に個々の相続人が支払うべき相続税額を計算していきます。
上記で計算した課税価格を相続人全員の分、合計します。
そして、遺産全体にかかる相続税額の合計(相続税の総額)を計算します。
その結果は、第2表に書き込みをします。
- 第2表「相続税の総額の計算書」
そして、相続税の総額を、各自の相続割合に按分して割り振っていきます。
これにより、支払いが必要な相続税額を計算することができます。
(4)各種の控除を行う
各自が負担すべき相続税額を計算できても、そのままの金額を支払う必要があるとは限りません。
相続税には、いろいろな控除制度があるためです。
控除制度としては、配偶者控除と未成年者控除、障害者控除、贈与税額控除や相次相続控除、外国税額控除があります。
贈与税額控除とは、相続開始前3年以内の贈与財産に対して相続税が課税されるため、贈与時に支払った贈与税を相続税から差し引いて、二重課税を防ぐものです。
- 配偶者控除
法定相続分または1億6000万円の高い方までは、配偶者に相続税がかからない制度
- 未成年者控除
未成年者が法定相続人のケースで相続税が軽減される制度
- 障害者控除
障害者が法定相続人になっていると、相続税が減額される制度
- 相次相続控除
10年以内に続けて相続が発生した場合、2回目以降の相続において、相続税の一部が免除される制度
- 外国税額控除
海外で相続税を支払った場合に、その支払い金額分について、日本での相続税から控除する制度
こういった控除を適用するためには、それぞれの計算書を作成する必要があります。
- 第4表「相続税額の加算金額の計算書」
- 第4表の2「暦年課税分の贈与税額控除額の計算書」
- 第5表「配偶者の税額軽減額の計算書」
- 第6表「未成年者控除 障害者控除の計算書」
- 第7表 「相次相続控除の計算書」
- 第8表 「外国税額控除の計算書」
このようにして、控除額を計算できたら、各自の相続税額負担額から差引を行い、最終的な納付税額を計算して、第1表の「相続税の申告書」に書き込みます。
以上で、相続税の申告書の作成が完了します。
4.相続税の納税方法
(1)基本的な納税方法
相続税を納税するときには、申告書の提出後、「相続税の納付書」に申告した相続税の金額を記入して、その金額を税務署に支払います。
税務署で支払ってもかまいませんし、ゆうちょ銀行や銀行などで支払いをすることも可能です。
また、平成29年1月4日からは、ネット上のクレジット決済でも納税ができるようになっています。
ただし、クレジット決済ができるのは、納税額が1000万円以下のケースのみです。
相続税の納税は、基本的に現金一括納付で、期限内に行う必要があります。
(2)延納、物納
相続税をどうしても現金一括で支払えない場合には、延納や物納という方法を利用できるケースがあります。
延納とは、相続税の分割払いです。
延納する場合、原則的に5年以内に相続税を支払いきる必要があります。
また、延納中には、利子税という税金が課税されるので、普通に支払うより相続税が高くなることに注意が必要です。
物納とは、相続税を物で支払う方法です。
不動産を納めることで相続税を支払うケースが多いです。
ただし、物納の場合の評価額は、相続税評価額となるため、市場価格より下がってしまうことが多いです。
それであれば、不動産を売却して現金で支払った方が得になるので、よく考えてから物納を申請するようにしましょう。
5.相続税の申告・納税の期限
相続税の申告と納税には、期限があることに注意が必要です。
期限に遅れると延滞税(年率14.6%)や無申告加算税(年率5~10%)、重加算税(年率等が課税され、大幅に負担額が上がってしまうためです。
相続税は、申告も納税も、相続開始後10ヶ月が期限とされているので、必ず期限内に、申告書の提出と納税の両方を行いましょう。
6.相続税申告時の注意点
相続税の申告をするとき、10ヶ月が経過しても、まだ遺産分割ができていないことがあります。
この場合でも、相続税の申告と納税をしないと、延滞税等の課税があります。
そこで、このような場合、法定相続分通りに申告をして納税を行い、後に遺産分割協議ができてから更正請求を行います。
配偶者控除等を受けたい場合には、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を税務署に提出していたら、その後3年以内に遺産分割ができたときに、控除を適用してもらうことができます。
3年以内にどうしても遺産分割協議ができない場合には、期限(相続開始後3年10ヶ月)から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署の承認を受けます。
すると、遺産分割協議後4ヶ月以内であれば、更正請求によって控除を適用してもらうことができます。
7.申告後に誤りが発覚するケース
(1)修正申告が必要
相続税の申告後、誤りが見つかる場合があります。
たとえば、単純な計算間違いや相続財産が漏れていた場合、相続財産の評価額を誤った場合、新たに相続人が見つかった場合などです。
このような場合、相続税の修正申告が必要です。
特に、相続税を少なく計算してしまった場合には、修正申告を行わないと、後に税務署に見つかったときに高額な延滞税や重加算税などを課税されるおそれがあるので、注意が必要です。
払いすぎた場合には、更正請求という方法で、過払いになっている相続税を還付してもらうことができます。
(2)相続税申告後の修正申告方法
相続税の修正申告を行うときには、「相続税の修正申告書」を作成して、管轄の税務署宛に提出します。
修正申告した場合のペナルティは、自主的に修正申告をしたかどうかによって異なります。
自主的に修正申告をすると、過少申告加算税がかかりませんが、税務署から指摘されて修正申告をした場合、10%の過少申告加算税がかかってしまいます。
相続税の申告間違いに気づいたら、なるべく早めに修正申告を行いましょう。
反対に、払いすぎていた場合には相続税の更正請求書という書類を作成し提出すると、税務署において調査が行われ、しかるべき還付が行われることとなります。
まとめ
相続税が発生したら、必ず相続税の申告と納税が必要です。
自分では自信がない場合には、専門の税理士に相談してみると良いでしょう。