贈与税の申告方法と知っておきたい非課税措置と節税効果
相続税 / 贈与税人からお金や住居などの財産を譲り受けた場合に納付すべき税金を贈与税といいます。
贈与税は相続税に比べて税率が高いため、生前に財産を受け取ることは一見すれば不利に思えるかもしれませんが、贈与には税負担を軽減する制度が充実していることから、賢く使えば相続税の節税対策として高い効果が期待できるとされています。
今回は、贈与税の基本的な仕組みを中心に、贈与税の申告手続きから節税効果の高い非課税措置までまとめてご紹介します。
1.贈与税って何?
贈与税とは個人間でお金や住居などの財産を譲り受けた場合に、譲り受けた人が支払うべき税金のことです。
親から資金援助を受けたり、あるいは新居をプレゼントされた場合でも、一定の要件を満たせば贈与税を支払う必要があります。
(1)贈与と相続の違い
相続は、所有者の死後に財産を譲り受けることをいい、相続人の同意は不要とされています。相続により財産を譲り受けた場合に発生する税金は相続税となります。
これに対し、贈与は所有者が生きているうちに、特定の財産を特定の人に譲り渡すことをいい、財産をあげる人(贈与者)と、財産をもらう人(受贈者)の間に合意があることが必要となります。
贈与により財産を譲り受けた場合に発生する税金は贈与税です。
贈与とよく似た言葉に、遺贈と死因贈与がありますが、遺贈も死因贈与も、財産を譲り渡す人の死亡により贈与の効力が発生することから、これにより発生する税金も贈与税ではなく相続税になります。
方法 |
効力発生時期 |
合意の有無 |
税金 |
贈与 |
生前 |
贈与者と受贈者の合意が必要 |
贈与税 |
相続 |
死後 |
合意は不要 |
相続税 |
遺言 |
死後 |
合意は不要だが遺言が必要 |
相続税 |
死因贈与 |
死後 |
生前に贈与者と受贈者の合意が必要 |
相続税 |
(2)贈与税と相続税の違い
相続税と同様、贈与税でも受け取った財産の額に応じで税率が決められていますが、贈与税は相続税に比べて、税率がかなり高く設定されています。
基礎控除後の課税金額 |
贈与税 |
相続税 |
|
税率 |
控除額 |
||
200万円以下 |
10% |
10% |
|
300万円以下 |
15% |
||
400万円以下 |
20% |
||
600万円以下 |
30% |
||
1000万円以下 |
40% |
||
1500万円以下 |
45% |
15% |
50万円 |
3000万円以下 |
50% |
||
5000万円以下 |
55% |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
|
2億円以下 |
40% |
1700万円 |
|
3億円以下 |
45% |
2700万円 |
|
6億円以下 |
50% |
4200万円 |
|
6億円超 |
55% |
7200万円 |
(2)贈与と相続、どちらが得?
例えば、6000万円の財産を生前贈与した場合と、相続した場合を考えてみましょう。
贈与税は年間110万円までが基礎控除額となるので、
(6000万円-110万円)×55%=3239万5000円を贈与税として納める必要があります。
これに対し、相続税では3000万円+相続人の数×600万円までが基礎控除額となります。相続人が2人の場合は、4200円までが非課税となるので、
(6000万円-4200万円)×15%-50万円=220万円を相続税として納付すればよいことになります。
つまり、6000万円の財産を生前に贈与すれば3239万5000円を贈与税として支払わなければならないのに対し、死後に相続すれば、相続税として納めなければならない金額は贈与税の1割にも満たない220万円ですむことになります。
このように生前贈与は相続よりも一見すると不利なようにも思えますが、専門家の多くは、「贈与は節税になる」といっています。
その理由は、贈与には節税効果の高い非課税措置が多く設けられているからです。
2.節税効果が期待できる非課税措置
贈与税が非課税となる特例措置として下記の4つがあります。
- 年間で110万円以内の贈与
- 夫婦間の居住用不動産の贈与(通称おしどり贈与)
- 教育資金一括贈与
- 結婚・子育て資金の一括贈与
生前贈与の贈与税控除を利用して相続税を節税する方法
生前贈与の特例を利用して相続税を節税する方法
(1)年間110万円の贈与
相続税と同様、贈与税にも基礎控除があり、年間110万円以内の贈与については、贈与税はかかりません。これを利用して、毎年110万円以内の金額を複数回贈与すれば、生前に財産を減らせることができるので、相続税の節税対策となります。
なお、年間110万円以内という制限は、贈与を受ける側の制限であって、財産をあげる側の制限ではありません。
したがって、子どもが複数いる場合は、それぞれに対し年間110万以内の贈与を繰り返せば、相続時には大幅に財産を減らすことができるので、高い節税効果が期待できるというわけです。
例えば、1億円の財産を持つ人が、子ども3人に毎年110万円を10年間贈与し続けた場合を考えてみましょう。
10年後には3300万円の財産を減少させることができるので、相続時には遺産の総額は6700万円となります。
ここから基礎控除額4800万円を差し引けば、相続税の対象となる財産は1900万円となり、子ども3人が均等に相続した場合は、それぞれ63万3000円を相続税として支払えばよいことになります。
仮に上記の贈与をしなかった場合は、各自209万9000円を納税しなければならないことから、相続人一人あたり146万6000円、家族全体で見れば439万8000円もの節税となります。
ただし、毎年同じ時期に同じ金額を継続して贈与を行っていると、贈与当初から一人につき1100万円の一括贈与があったものとみなされ、贈与税が課税される危険があります。
また、贈与したつもりで、毎年、子ども名義の預金に110万円を積み立てしていた場合は、名義預金として相続税が課税されるケースも多く報告されています。
そのため、毎年、110万円を贈与する場合は、その都度、贈与契約書を作成し、毎年同じ時期に贈与しないように気を付けなければなりません。
また預金として贈与する場合は印鑑や通帳は贈与を受ける人が保管するようにするなど、一括贈与や名義預金ではない証拠を残しておくことが大切です。
(2)夫婦間の居住用不動産の贈与(通称おしどり贈与)
自宅を配偶者に贈与すると、110万円の基礎控除の他、2000万円までが非課税となるのが通称おしどり贈与と呼ばれる贈与税における配偶者控除の制度です。
相続税の配偶者控除とは異なり、贈与税における配偶者控除では対象となる財産は、自宅用の土地や家、またはその取得のために充てられる資金に限定されています。
この配偶者控除の適用を受けるには下記の要件をすべて満たしている必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 贈与の対象が国内の居住用不動産(自宅用の土地や家)、またはその取得のためにあてる資金であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与を受けた自宅・贈与された資金で所得した自宅に、配偶者が実際に住んでおり、その後も住み続けること
- 同じ配偶者からの贈与について過去にこの控除の適用を受けていないこと
上記の要件を満たせば、配偶者から自宅または自宅を取得するための資金をもらった場合には、基礎控除とあわせて2110万円までが非課税となります。
(3)住宅取得等資金贈与の非課税特例
父母または祖父母などの直系尊属から住宅を購入する資金を贈与された場合は、下記の金額まで非課税となる制度です。
この制度を利用するには、次の要件を満たしている必要があります。
- 贈与を受ける人の年齢が、贈与を受けた年の1月1日において満20歳以上であること
- 贈与を受ける人の年間所得が、2000万円以下であること
- 贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅を取得し、居住すること
非課税となる額は下記となります。
①消費税が8%の物件
契約時期 |
省エネ等住宅 |
それ以外の住宅 |
~平成27年12月31日 |
1,500万円 |
1,000万円 |
平成28年1月1日~平成32年3月31日 |
1,200万円 |
700万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 |
1,000万円 |
500万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 |
800万円 |
300万円 |
②消費税が10%の物件
契約時期 |
省エネ等住宅 |
それ以外の住宅 |
平成31年4月1日~平成32年3月31日 |
3,000万円 |
2,500万円 |
平成32年4月1日~平成33年3月31日 |
1,500万円 |
1,000万円 |
平成33年4月1日~平成33年12月31日 |
1,200万円 |
700万円 |
(4)教育資金一括贈与
父母や祖父母から30歳未満の子や孫へ、教育のための資金をまとめて贈与すれば、1500万円までが非課税となる大型非課税制度が教育資金一括贈与です。
教育資金とは、学校に対して支払われる入学金や授業料だけでなく修学旅行費や学校給食費、学用品の購入費なども含まれ、また学習塾や習い事、留学の際の渡航費などについても500万円を限度に認められています。
この制度を利用するには、教育資金の贈与を受ける子また孫名義の口座を開設し、その開設した口座に教育資金をまとめて入金しておく必要があります。
入金された教育資金は、学費など教育資金として使ったことがわかる領収書と引き換えにその都度払い出しを受けるというしくみになっています。
教育資金一括贈与を利用すれば、相続財産を大幅に減らすことができることから高い節税効果が期待できること、また祖父母が孫の教育資金を援助することで、住宅ローンの支払いなどで子の教育資金に窮する親の経済的負担を低減できるなどの利点から、すでに多くの人が利用しています。
ただし、その反面、領収書をその都度、金融機関に提出しなければならず手間がかかること、また贈与を受ける子・孫が30歳になった時点で使い残しがあると、その分に贈与税がかかるといったデメリットがあります。
なお、この制度は平成31年3月31日までに行われる贈与を対象とする限定制度です。
(5)結婚・子育て資金の一括贈与
父母または祖父母から20歳から49歳までの子・孫に対し、結婚と子育てに関する資金を一括贈与すれば1000万円(結婚に関する資金の身の贈与では300万円)までが非課税となるのが結婚・子育て資金の一括贈与です。
仕組みは、(4)の教育資金一括贈与と同じで、金融機関に子又は孫名義の口座を開設し、使った費用の領収書を提出することで口座から払い出されるというものです。
お金をもらった子・孫が50歳になった時点で使い残しがあれば、その使い残し分に贈与税が課税されるというのも教育資金一括贈与と同じ扱いとなっています。
ただし、この制度は贈与者である父母・祖父母が死亡すれば終了し、その時点で残っているお金は、相続財産に振り戻されることから、相続税の節税対策としては不向きと言われています。
なお、この制度も平成31年3月31日までに行われる贈与を対象とする限定制度となっています。
(6)それ以外で贈与税が非課税となる場合
上記の大型贈与以外にも、下記の場合には贈与税はかからないとされています。
①離婚による財産分与
離婚による財産分与は、相手から贈与を受けたわけではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づいて受け取った財産であると考えられるため、贈与税はかからないのが原則です。
ただし、分与された財産が多すぎる場合や、離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合には、贈与税が課税されることになります。
②冠婚葬祭や見舞のための金品など
冠婚葬祭やお見舞いのための金品、年末年始の贈答などは社会通念上相当と認められる限り贈与税はかかりません。
3.贈与税の仕組み
贈与税は、財産を譲り受けた人が納付すべき税金ですが、課税方式には、贈与を受けた年ごとに課税される暦年課税と、贈与者が亡くなった時に相続税と精算する相続時精算課税の2種類があります。
(1)暦年課税と相続時精算課税
暦年課税は、贈与を受けた年ごとに贈与税を計算する一般的な課税方式です。
これに対し、相続時精算課税は、2500万円までの贈与を非課税とし、贈与者が亡くなると、贈与された財産を相続財産に加えて相続税を計算し、贈与時に申告した贈与税を清算するというものです。
少しわかりにくいので具体例で考えてみましょう。
例えば父親Aが子Bに対し、毎年1200万円を3年間、贈与した後に亡くなったとします。Aには相続時に5000万円の財産があり、相続人はBの他子どもC人がいます。
まず、相続時精算課税では、2500万円までが控除され、それを超えた部分については一律で20%の贈与税が課税されることになります。
事例でも(3600万円-2500万円)×20%=220万円を、2500万円を超えた贈与時に、贈与税として納税する必要があります。
次にAが死亡した場合は、5000万円の相続財産に、Aが生前Bに贈与した3000万円を加えた8000万円から基礎控除額の4200万円を引いた3800万円をもとに相続税を計算します。
BとCが均等に遺産を相続する場合、各自235万円を相続税として支払う必要があります。このときBの相続税は、235万円から贈与税として支払った220万円を引いた15万円となるわけです。
つまり、相続時精算課税は、2500万円全額が非課税となるわけではなく、相続まで税金の支払いが猶予される制度といえます。
相続時精算課税制度とは?手続き方法と暦年課税制度の違いを解説
(2)暦年課税と相続時精算課税、どちらの課税方式を選ぶのが得?
相続時精算課税はすべての贈与に使えるわけではなく、原則として60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合に選択できる制度です。
相続時精算課税を選択した場合は、相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります。そして、この届出書を提出した後は、暦年課税に変更することはできなくなります。
では、暦年課税と相続時精算課税、どちらの課税方式を選ぶのが得でしょうか。
一見すると控除額の大きい相続時精算課税の方が得なようにも思えますが、相続時には相続財産に加算されることになるので、相続財産が多く相続財産が高額になる場合は不利に働く可能性があります。
そのため、通常は暦年課税を選ぶのが一般的ですが、相続時に相続税が発生しないと想定
されるときは、相続時精算課税を選択した方が有利な場合もあります。判断に迷われたら、専門家に相談してみるとよいでしょう。
4.贈与税の申告
最後に、贈与税の申告についてまとめています。
(1)贈与税の申告時期
贈与税の申告は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までに、贈与を受けた人の住所地を管轄する税務署において行うことになっています。
期限を過ぎると延滞税や加算税などのペナルティが課せられるので注意してください。
なお110万円以内の贈与は非課税となりますので申告は不要ですが、課税方式として相続時精算課税を選択したときは、1年間に贈与を受けた金額が110万円以内であっても、申告をする必要があります。
(2)贈与税の申告に必要な書類
贈与税の申告には下記の書類が必要です。
暦年課税 |
|
相続時精算課税 |
特例を受ける場合は、申告書の他に下記の添付書類が必要です。
①相続時精算課税で申告する場合
- 相続時精算課税選択届出書(https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/zoyo/tebiki2016/pdf/27.pdf)
- 財産をもらった人の戸籍謄本
- 財産をもらった人の戸籍の附票の写し
- 財産をあげた人の住民票の写し(マイナンバーの記載のないもの)
②夫婦間の居住用不動産の贈与(通称おしどり贈与)の特例を受ける場合
- 贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本(抄本)と戸籍の附票の写し
- 居住用不動産の登記事項証明書など(贈与を受けた人が居住用不動産を取得したことを証明する書類)
- 固定資産評価証明書など
③住宅取得等資金贈与の特例を受ける場合
- 贈与を受けた日以降に作成されたもので、贈与を受けた人の氏名・生年月日と贈与してくれた人が贈与を受けた人の直系尊属であることがわかる戸籍謄本
- 贈与を受けた人の源泉徴収票など、贈与を受けた年の所得がわかる書類
- 不動産の売買契約書など
- 耐震基準適合証明書、住宅性能証明書、建設住宅性能評価書など家屋の性能に関する各種証明書
まとめ
相続税との比較で贈与税についてまとめてみました。贈与税は、相続税に比べて税率は高く、一見不利なようにも思えますが、大型の非課税制度が充実していることから、うまく利用すれば相続税の節税効果が期待できます。
一度専門家に相談してみるとよいでしょう。