遺言を書く意味とは?種類別での書き方や注意点について解説
遺言書 / 遺言執行遺言書とは、人生の締め括りとしての書面でもあります。
最近では「終活」と称して、財産や人間関係の整理を行うと共に遺言書を用意しておく方も増えてきました。
そうした中で、
・遺言を遺したいけれども、どうすればいいのかわからない。
・遺言書はどのように作成すればいいのか。
・そもそも遺言書によって何ができるのか。
といった様々な遺言に関する疑問をお持ちの方も多いかと思われます。
そこで今回は、遺言の意味についてみた上で、遺言書の書き方や種類、有効な遺言書を遺すために気をつけておきたい点についてご説明をしていきます。
1.遺言と遺言書
(1)遺言とは
遺言とは、自分が亡くなった後に残る財産の処分方法などを示しておく意思表示をいいます。
遺言は通常「遺言書」という形で表明され、その時には本人は死亡しているため、遺志の表示でもあります。
一般的に、未成年者の法律行為は法定代理人の同意を要するものもありますが、遺言は満15歳になれば誰でも行なえます。
遺言は、本人が死亡してから効力を発揮するため、その意思表示について改めて確認することができません。
そのため、形式と内容については厳格に法律で定められています。
なお、遺言がない場合には財産は法定相続分に従って分けられることとなります。
(2)遺言の意味
遺言には、大きく分けて2つの意味があります。
①自分のために遺す
まず、自分の財産をこのように処分してほしい、誰に相続してほしい、といったことを遺言として表すことで、死後への憂いが解消されます。
遺言には、被相続人の心残りをなくすという意味があるのです。
②遺族(相続人)のために遺す
次に、財産にはどのようなものがあり、誰に相続させるのか、という意思を示しておくことで、相続人同士のトラブルを避けることができます。
遺言には、相続人が争うことなく相続できるようにするという意味もあります。
(3)遺言書とその種類
法律で遺言方式は7種類に分けられています。
その中では、普通方式が3種類、特別方式が4種類に分けることができます。
一般的な遺言には、普通方式である「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があります。
以下、順にみていきましょう。
①自筆証書遺言
時と場合を選ばずに誰にでもできる、もっとも簡単な遺言です。
本人が自筆で日付と氏名、本文を書いた上で押印すれば足ります。
ただし、自分で保管するために紛失や変造の危険があるほか、方式を守らないと無効になってしまう可能性があります。
②公正証書遺言
公証人役場などで本人が遺言内容を口頭で述べ、公証人がそれを公正証書という形で作成します。
これには証人2人以上で立会いをしてもらう必要があります。
費用と手間が掛かる反面、保管を公証役場で行ってもらえる上に、専門家である公証人が筆記するため方式不備での無効の心配は要りません。
安全性と確実性でいえば、もっとも優れているのがこの遺言です。
③秘密証書遺言
遺言した内容を秘密にしておきたい場合に、この遺言方式を用います。
本人の署名捺印に加え、証人2人以上の立会いと公証人を要します。
公証人が証明するのは遺言の存在のみであり、内容は関知しません。
内容の秘密保持と保管についての確実性がある反面、自筆証書遺言と同様に方式が不備であることによる無効の可能性はあります。
④その他
特別方式遺言には、次の4種類があります。
これらは通常の生活においてはさほど問題となりませんが、いざという時のために覚えておくといいでしょう。
- 一般危急時遺言
病気や怪我などの理由により、ほどなくして死亡するという時に行われる遺言です。
証人3人以上の立会いの上、1人が口述して全員に読み聞かせます。
20日以内に証人の1人ないし利害関係人が家庭裁判所に請求し、確認を取ります。
- 難船危急時遺言
船が遭難し、船内で死亡が迫っている時に行われる遺言です。
証人が2人以上で立会い、口頭で遺言内容を示します。
証人はその趣旨を筆記して署名捺印し、証人の1人ないし利害関係人によって家庭裁判所へ遅滞なく請求し、確認を取ります。
- 一般隔絶地遺言(伝染病隔絶地遺言)
伝染病によって病院へ隔離された人の行う遺言です。
警察官1名と証人1人以上の立会いと署名捺印を要します。
- 船舶隔絶地遺言(在船者遺言)
船舶内にいる人の行う遺言です。
船長ないし事務員1名と証人2人以上による立会いと署名捺印を要します。
これら4種類の特別方式遺言は、遺言者が普通方式の遺言をできるようになった時から6ヵ月の生存によって無効となります。
2.遺言によってできること(効果)
遺言は財産の処分方法などを指定できるものの、どんな内容でも書き遺せるわけではありません。
既に述べたように、遺言が効力を発揮する時点で本人は亡くなっているため、確認の必要な曖昧な内容や、生者の権利を大幅に制限する広範な内容の指定を可能とするのは、妥当とはいえないからです。
法律上定められた遺言事項、つまり遺言の効果は以下の9種類です。
(1)相続分指定
これが遺言というときに真っ先にイメージされる効果かも知れません。
法定相続分と異なる相続分の指定が可能です。
相続人全員の相続分をそれぞれ指定することもできますし、特定の相続人の分だけを指定することもできます。
ただし、法定相続人の遺留分を侵害することは、遺言でもできません。
(2)遺産分割方法指定・禁止
遺産分割の方法には、現物での分割やお金に換えて分ける換価分割、相続する者が代わりにお金で払う代償分割といったものがあります。
これらの方法を指定し、または第三者に委託するという方法も採れます。
最長で死後5年間、分割の禁止をしておくこともできます。
(3)遺言執行者指定
遺言執行者とは、目録作成など財産の管理をし、遺言書に記載された内容を実行する者をいいます。
指定がなされていない場合は委託者からの指定を受けるか、家庭裁判所によって選任されます。
未成年者・破産者は遺言執行者にはなれません。
基本的には、相続手続において必須というわけではありませんが、遺言執行者が指定されていることで相続人による勝手な財産処分を防ぎ、確実な遺言の実行をなし得ます。
なお、認知や推定相続人の廃除、廃除の取消しは遺言執行者でなければできません。
(4)相続財産処分
遺言によって、遺贈や寄付行為といった相続財産の処分を行うことができます。
ただし、法定相続人の遺留分の侵害はやはりできません。
(5)遺留分減殺方法指定
遺留分が侵害された遺贈であれば、通常は法律に定められた価格比例による減殺が行われます。
しかし、遺言によってそれとは異なる方法の指定ができます。
遺言以外による遺留分減殺方法の指定はできません。
(6)認知
法律上の婚姻関係ではない男女から生まれた非嫡出子の認知も遺言でできます。
(7)推定相続人の廃除・廃除の取消し
相続人となる予定の者の地位を奪う廃除、ないし廃除の取消しも遺言でできます。
(8)担保責任指定
相続財産に何らかの瑕疵があった場合、相続人が担保責任を負うこととなります。
この担保責任の範囲を遺言によって広げたり狭めたりすることができます。
(9)未成年後見人の指定
相続人の親権者が不存在となる場合に限り、遺言によって未成年後見人を指定できます。
指定を第三者に委託することもできます。
3.遺言書作成にあたっての注意点
遺言を遺言書という形式で作成する場合、いくつかの注意点があります。
以下、順にみていきましょう。
(1)遺言書の要式性
先述したように、遺言書は厳格な要式性を有する書面ですので、要式を満たさないと無効となります。
これにより故人の意思表示という本来不安定なものを、安定的なものとさせるのです。
(2)遺言が無効となる場合
たとえば夫婦で連名による遺言書を作成するなどというような「共同遺言」は無効となります。
これは、遺言は他者に影響を受けずに意思を表明したものでなければならず、また一方だけが要式性に反する場合の他方の効力が不明となる、といった問題があるからです。
他には、遺言は遺言書という証書がなければ原則として無効となります。
例外は特別方式遺言によるような緊急の場合ですが、そういったときでも法定の手続を踏まえる必要があります。
(3)遺言を撤回したい場合
遺言の撤回は、生きている間は自由です。
ただ、何通も遺言書を作成した場合、有効となるのは最新の日付のものです。
(4)自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は全て自力で作成するものですので、自由度は高くなります。
とはいえ、押さえるべきところは押さえておかないと、効力を有しません。
自筆証書遺言が自筆であることを求めるのは、筆跡から遺言者本人によるものであることを確認するためですので、パソコンで作成したり代筆をしてもらったりしたものは無効となります。
また日付の書き漏らしや曖昧な日付は全て無効となります。
日付がなければいつの時点での意思を示したものかが不明となるからです。
さらに、署名捺印のないものも無効です。
この際、署名は芸名やペンネームでも認められます。
(5)負担付相続・遺贈の場合
無償で財産を与える場合を遺贈、反対給付義務がある場合を負担付遺贈といいます。
遺贈は受ける側(受遺者)が自由に放棄できます。
包括遺贈の場合については遺贈を知った時から3ヵ月以内、特定遺贈の場合については催告がない限りいつまでも放棄が可能です。
また負担付遺贈の場合、その負担によって利益を享受する者は、遺贈を受けた相続人に対して負担を履行するよう請求ができます。
たとえば、子供の学費を支払う代わりに財産を相続させる、などという遺言がなされていた場合などです。
(6)遺言と生前贈与
遺言は要式を備えている限り有効ですが、相続人が確実にそれを遵守するかどうかはわかりません。
遺留分を侵害する遺言は当然従わずともよいですし、遺言内容そのものではない付言遺言も従う必要はありません。
他にも、全員で合意の上遺産分割をした場合には、そうした遺産分割を禁じる文言が遺言中にない限り、有効となります。
したがって、確実に特定の財産を誰かに相続させたい、といった場合には、生前贈与をしておくというのも手です。
4.確実に遺言を遺すために
(1)本人が行うべきこと
要式性を満たした遺言書を作成しておくことや、生前贈与などの方法を採っておくことが大事となります。
また、それに伴って、自分がどのように財産を処分したいのか、という意思の明確化を行っておく必要があるでしょう。
(2)専門家に任せたほうがいいこと
遺言書は厳格な要式性を求められるものなので、1つでも問題があると無効と判断されてしまいます。
また、遺言書をどのように保管しておくかというのも悩みどころです。
下手に見つかるところに置いておけば偽造や変造のおそれもありますし、かといって見つからないところに置いておいて最後まで存在に気づかれなかった、となっても困ります。
加えて、遺言の実行もトラブルが多く、信用のおける相手に任せたいところです。
そこで遺言執行者ないし遺言信託として、弁護士などの専門家に任せておくことで、適式で有効な遺言書を作成し、その内容を確実に実行できます。
なお、公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する際の相場としては10万~20万円程度、これに公証役場への手数料や証人への日当などが加わります。
そして遺言の執行についての依頼相場は、財産の額によっても変わりますが、20万~50万円程度と考えておくといいでしょう。
まとめ
遺言書の書き方と、そこにどういう意思を残せるのか。
遺言が無効とされないためには、これらを踏まえることが大切です。
その上で、トラブルを避けるための遺言書の作成方法や執行方法については、専門家に任せるのが望ましいといえるでしょう。
きちんとした遺言書を用意しておくことで、日々を安心して過ごせるようにもなります。
ぜひ一度、遺言について考えてみてください。