家を相続する際に必要な手続と注意点を詳しく解説
相続手続き持ち家や借家を相続することになった場合、様々な手続が必要となります。
いつまでにどんな手続をしなければならず、その際に必要な書類はどんなもので、いくら税金が掛かるのか、理解しておかなければなりません。
その他、複数人で相続する場合や住宅ローンが残っているケース、抵当権や借地借家権があるときなど、いろいろな問題もあります。
それらについて一通り確認していきましょう。
1.家の相続手続方法
(1)手続の流れ
被相続人の死亡により、相続が開始します。
死亡届の提出や葬儀を済ませると共に、金融機関に取引の停止連絡を行っておきます。
その後、遺言書の確認と検認を行います。
遺言書の存在しない場合、相続人が全員参加する遺産分割協議を行わねばなりません。
協議に際しては、相続人と相続財産の調査を済ませておく必要があります。
こうして家(不動産)が相続財産として特定・確定され、誰が相続するのかが決まることとなるのです。
(2)必要な書類
家(被相続人の持ち家)を相続する場合には、相続登記を行います。
これはいわば名義変更です。
遺言書に従うのか、遺産分割協議によるのか、あるいは民法に定められた法定の相続分に則るのかによって、要する書類が多少変わりますが、基本的には共通しています。
相続登記の必要書類には、大きく分けて「被相続人の書類」と「相続人の書類」と「相続する家の書類」の3種類があります。
①被相続人(亡くなった方)の書類
- 戸籍謄本 → 生まれた時から死亡した時までのもの
- 住民票の除票 → 本籍の記載を要する
②相続人の書類
- 戸籍謄本 → 相続人全員分の現在のもの
- 印鑑証明書 → 相続人の全員分のもの・遺言書による指定がない場合に必要
- 住民票 → その家を相続する相続人のもの
- 相続関係説明図(家系図) → 被相続人と相続人全員との身分関係を示すもの
- 遺産分割協議書 → 遺言書による指定がない場合に必要
③相続する家の書類
- 登記簿謄本(登記事項証明書)
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
これらのうち、「相続関係説明図」「遺産分割協議書」「登記申請書」は相続人らが作成するものです。
また「登記簿謄本」は法務局で取得できます。
それ以外の書類は市町村役場で取得できます。
(3)手続先
相続登記の手続は、管轄法務局へ行うこととなります。
必要書類を取り揃えた上で、管轄の法務局の窓口へと申請をします。
参考:管轄法務局
書面による申請のほか、オンラインでの申請も行うことが可能です。
参考:オンライン申請
オンライン申請の場合、登記所へいかずに受付番号の取得が可能、平日の21時まで申請可能、登記事項証明書が書面での請求より安い(書面請求:600円/オンライン請求:480円)といった利点があります。
2.相続による登記名義の書き換え
(1)不動産(家)登記とは
取引の安全のため、土地建物(不動産)の情報や所有者を登記簿に載せ、公開することで、権利関係を示すものです。
相続の際に関連する登記には、以下の種類があります。
①相続登記(相続を理由とする所有権移転登記)
相続の際に行う登記です。
基本的には被相続人から相続人へと建物の所有権が移転したことを示します。
固定資産税の支払義務者の確定にも用いられます(確定は1月1日時点)。
②建物滅失登記
建物が何らかの理由で失われていた場合に行う登記です。
相続の際に建物がなくなっていたというときには、この登記を行います。
③建物表題登記
建物の造りや大きさを示す登記です。
新築時に行われているはずですが、中には登記のなされていない建物もあります。
あるいは建て増しが反映されていないこともあります。
そのような建物を相続する場合、この登記も行っておきましょう。
④所有権保存登記
その建物が誰のものなのかを示す登記です。
古い建物などの場合、登記がなされていないこともあるでしょう。
そうしたときには、この登記を行っておくと後々のトラブルを避けられます。
⑤分筆登記
複数人で相続し、土地建物を分けるときに必要な登記です。
これは隣接する土地との境界も関わってくるため、近所の方の立ち会い協力が必要となります。
(2)不動産(家)の相続登記申請
家の相続登記の手続は、上述した必要書類を揃えて、登記申請書と一緒に管轄法務局への申請という形で行います。
登記申請書は自作しても構いませんし、法務局から様式をダウンロードすることもできます。
参考:不動産登記申の請書様式
相続を理由とする所有権の移転登記については、どのように相続するかで申請書の書き方も変わります。
- 公正証書遺言による相続の記載例
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207244.pdf
- 自筆証書遺言による相続の記載例
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207249.pdf
- 法定相続の記載例
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207252.pdf
- 遺産分割による相続の記載例
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207255.pdf
- 遺産分割による相続(数次相続)の記載例
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001215873.pdf
なお、数次相続とは、相続の開始後、遺産分割協議や相続登記などの手続を行う前に別の相続人が亡くなり、新しく相続が開始してしまうことをいいます。
(3)不動産(家)の相続に掛かる費用
相続人が家の相続をする場合、費用はいくら掛かるのでしょうか。
大きく分けると、費用は2種類。「相続登記に掛かる費用」と「相続税」です。
また、手続を弁護士などの専門家に依頼する場合、別途手数料が掛かります。
①相続登記に掛かる費用
- 書類の取得費用
戸籍謄本や住民票、各種証明書を発行してもらうのには、一通あたり数百円程度掛かります。
相続登記に必要な書類を全て合わせると、数千円ほど必要となります。
- 登録免許税
登記申請の際には、登録免許税法などに定められた登録免許税を納める必要があります。
この登録免許税の額というのは、不動産(家)の固定資産税評価額の1000分の4(0.4%)です。
固定資産税評価額がいくらなのかは、市区町村から毎年送付されてくる納税通知書に記載がなされています。
具体的に計算してみましょう。
たとえば、家の評価額が3726万4800円だったとします。
まず、1000円未満の端数を切り捨てて、3726万4000円となります。
この額に0.4%をかけ、14万9056円となり、ここからさらに100円未満の端数を切り捨てます。
結局、14万9000円が登録免許税として支払う額となるわけです。
なお、相続人以外の者が家を相続する場合、登録免許税の割合が2%になるほか、不動産取得税が4%掛かってきます。
ただ、これに関しては減税処置などもありますので、詳細は弁護士などの専門家にご相談なさるのが確実です。
- 手続委任費用
相続登記は、いつまでに行っておかねばならない、といった期限はありません。
ですが、きちんと所有権の移転登記をしておかないと、他人がいつの間にか住んでいるなどといったトラブルが生じることもあります。
とはいえ、相続登記の手続は煩雑であり、ただでさえ様々な手続に忙殺される相続時にはなかなか自分一人では対処し切れないこともあります。
そこで弁護士などの専門家に手続を委任することで、スムーズかつ確実に相続登記を済ませることができます。
その際の費用としては、対象となる不動産の数や、どこまでの手続を委任するかによっても変わってきますが、概ね5万~10数万円となります。
必要書類の取得や遺産分割協議書の作成まで含めての依頼となれば、高めになるでしょう。
なお、弁護士などに依頼する場合、委任書も必要となります。
②相続税
相続税は、家を相続すれば絶対に掛かる、というものではありません。
何故なら、全ての相続財産が基礎控除額を超過する場合にのみ、相続税は掛かるからです。
相続税における基礎控除額は、【3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数】という式で算出します。
ただ、相続財産の総額がいくらと評価されるのかは難しく、場合によっては専門的な知識も必要となります。
たとえば、マンションを相続する場合や、不動産を共有する場合など、算定が難しい場合は専門家にご相談なさるとよいでしょう。
3.家を相続する場合の注意点
(1)注意しておきたい諸点
家を相続するといっても、いろいろな問題が考えられます。
親の持ち家で、ローンや抵当権なども一切なく、相続人が一人だけ、というならまだ楽ですが、そう上手くいくとは限りません。
ここでは、数多くある家の相続の問題のうち、代表的なものについてみていきましょう。
(2)共同相続の場合
相続人が一人ではなく複数いる場合、相続する財産は一度全て共有となります。
そこから遺言書や法定相続、遺産分割によって分けていくこととなるのです。
ところが、不動産は遺産分割協議を経ずして、勝手に登記することもできてしまいます。
この場合、相続分に応じて共有となりますが、共有持分を超えた分の抹消登記請求などといった処理に手間が掛かります。
(3)住宅ローンの処理
銀行の住宅ローンが残っているケースもあります。
通常、住宅ローンは団体信用保険で賄われますが、保険付きでない場合、残債務は相続されるので、支払い義務が生じます。
(4)抵当権付きの家屋
家や土地が抵当に入っていることもあります。
この場合、2つのケースが考えられるでしょう。
1つは、被相続人自身の債務を担保するための抵当です。
これについては相続人もそのまま債務を引き継ぐため、支払い義務があります。
もう1つは、他人の債務を担保する、いわゆる物上保証人としての抵当です。
この場合、債務の支払い義務はないのですが、債務者が任意に支払わない場合には、相続した家が競売に掛けられるおそれもあります。
(5)借家権の相続
家そのものの所有権ではなく、借家権を相続する場合もあります。
このとき、相続人は借家人としての地位を引き継ぎますので、家主からの明渡請求には原則応じなくともよいということになります。
(6)相続財産となる家が遠隔地にある場合
家を相続するといっても、近場にあって必ず把握できるとは限りません。
原野商法などによって僻地や遠隔地に不動産を所有している被相続人もいます。
相続漏れが生じないようにするため、相続の対象となる財産のチェックはしっかりと行わなければなりません。
4.家を相続しようというときに
(1)相続人が行っておくべきこと
まず、必要書類の準備を行わなければなりませんが、書類によっては取得に数日~数ヶ月ほど掛かるものもあります。
書類については、早めに取得のための手続を行っておく必要があるでしょう。
次に、相続人と相続財産の確定です。
何が相続の対象となる財産かがわからなければ、遺産分割もままなりませんし、相続税も算出できません。
遺言書の有無の確認も含めて、誰が相続人なのか、何が相続財産なのかは調べておくといいでしょう。
(2)専門家に任せたほうがいいこと
家の相続登記には、期限があるわけではありません。
しかし、固定資産税の支払義務者は1月1日に確定されるので、それまでに手続は済ませておくことが望ましいといえます。
また、土地建物の登記においては、価額の評価や境界の画定など、非専門家が判断するのは難しい事柄もあります。
加えて、家が古い場合など、そもそも登記がなされていないこともあるなど、トラブルが生じることは珍しくありません。
このように、手続を急ぎたい場合や、難しい判断を迫られる場合には弁護士などの専門家に依頼なさるのが確実です。
まとめ
家の相続で手続的に問題となるのは、主に相続登記です。
誰が相続するか、どのように相続するかによっても注意しておかなければならない点が変わってきますので、確実に手続を行いたい場合、弁護士などの専門家へのご相談も視野に入られるとよいのではないでしょうか。。