直系卑属とは何か?相続人の範囲や順位など詳しく解説
相続人 / 相続財産相続関係の書籍や記事などでよく目にする「直系卑属」という言葉。
なんとなく意味はわかるけど、具体的には誰をさすのかわからない。
あるいは養子や認知された子も含まれるのか、直系卑属が示す範囲がわかりいくい。
そんな疑問をよく耳にします。
今回は、直系卑属とは誰を指すのか、直系卑属には誰まで含まれるのか、直系卑属の相続順位やその相続分はどうなっているのかといった一般的な疑問だけでなく、実際に直系卑属が相続人となった場合に留意すべき点についても、わかりやすく詳細に解説しています。
1.直系卑属とは
父祖から子孫へと垂直につながる血族を直系血族といい、そのうち、自分よりも前の世代に属する者を「直系尊属」、自分よりも後の世代に属する者を「直系卑属」といいます。
つまり、直系卑属とは、子、孫、ひ孫などのことです。
(1)養子
養子と養親は血のつながりこそないものの、法律では、養子縁組の時から「養親の嫡出子としての身分を取得する」とされています。
したがって、養子も直系卑属に含まれることになります。
では養子の子も直系卑属に含まれるのでしょうか。
養子縁組の前後で結論が異なります。
養子縁組前に生まれた養子の子と養親との間には血族関係は認められません。
一方、養子縁組後に生まれた養子のことと養親との間には、法律上の血族関係が生じるとされています。
したがって、養子縁組後に生まれたこであれば、直系卑属に含まれることになります。
このことは、後で述べる代襲相続の資格において問題となります。
(2)非嫡出子
非嫡出子とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子どものことです。
非嫡出子は、直系卑属にはあたりませんが、認知されていれば、直系卑属に含まれることになります。
(3)胎児
胎児は、相続についてはすでに生まれたものとみなされます。
したがって、胎児も直系卑属に含まれ、相続人となることができます。
2.直系卑属の相続順位と相続分
相続が開始されると、まず誰が相続人となるか、その相続分はどうなるかが問題となります。
遺言があれば、遺言に書かれた内容が優先されますが、遺言がない場合は、どうなるのでしょうか。
誰が相続人となるか(相続人の範囲)、どの順位で相続人となるか(相続順位)、相続分はどれくらいになるか(法定相続分)はすべて民法に規定されていますので、その規定したがって相続人や相続分を決定していきます。
配偶者は常に相続人となり、それとは別に第1順位から第3順位までの相続人が民法で決められています。
直系卑属は第1順位の相続人となり、1次的には子が相続人となります。
子が既に亡くなっている場合や、相続欠格や廃除により相続人としての資格を喪失している場合は、子に子(被相続人から見て孫)がいれば、その子(孫)が子に代わって相続人となります。これを代襲相続といいます。
では、子などの直系卑属の相続分はどうなるのでしょうか。
具体例で見ていきましょう。
(1)配偶者と子が一人いる場合
配偶者の相続分は1/2、子の相続分も1/2となります。
(2)配偶者と子が二人いる場合
配偶者の相続分は1/2、子の相続分は、1/2を子どもの頭数(2人)で按分して算出します。
したがって子どもが2人の場合、子どもの相続分は各1/4ずつとなります。
なお、子どもが3人の場合の各相続分は1/6となります。
(3)配偶者はなく子が一人いる場合
配偶者が既に死亡していたり、離婚している場合は、子が全て相続することになります。
(4)配偶者はなく子が二人いる場合
全ての遺産を、子の頭数(二人)で按分して、各相続分を算出します。
したがって子が二人の場合は、各1/2ずつを相続することになります。
なお、子が三人の場合の各相続分は1/3ずつとなります。
(5)配偶者と孫がいる場合
被相続人の死亡よりも前に、相続人である子が亡くなっていた場合は、子に子(孫)がいれば、その孫が子を代襲して相続人となります(代襲相続)。
そして、孫などの直系卑属は子と同じ順位(第一順位)で、子の相続分を受け取ることができます。
したがって、本ケースでは、配偶者の相続分は1/2、孫の相続分は1/2となります。
なお、孫が既に死亡していたり、被相続人から廃除されたり欠格事由があることで相続人としての資格を剥奪されていても、孫に子(被相続人から見てひ孫)がいれば、ひ孫が代襲相続することになります。
これを再代襲といい、直系卑属が現存する限り、代襲されていくことになります。
(6)配偶者はなく孫だけがいる場合
配偶者が既に死亡していたり、離婚している場合は、子に代わって孫が全ての遺産を相続することになります。
なお、孫が複数いる場合は、全ての遺産を孫の頭数で按分して、各相続分を算出します。
3.直系卑属と代襲相続
相続の開始よりも前に、相続人である子が既に亡くなっていたり、あるいは廃除や欠格により相続人となる資格を喪失している場合に、子の子(被相続人から見れば孫)などの直系卑属が、子に代わって相続人となることを代襲相続といいます。
代襲相続が発生する原因(代襲原因)には、下記の3つの事由があります。
- 相続人である子が相続開始より前に死亡している場合
- 相続人である子に欠格事由がある場合
例えば、被相続人や先順位・同順位の相続人を殺害し刑に処せられたり、詐欺や強迫により遺言書を作成させたり、あるいは作成させなかったり、また利益を得る目的で遺言書を偽造したり隠したりした場合などは欠格事由に該当し、当然に相続権を剥奪されます。 - 相続人である子が廃除された場合
相続人である子が、虐待や侮辱、著しい非行等により被相続人に耐えがたいまでの身体的・精神的・経済的苦痛を与えた場合は、被相続人の請求に基づき家庭裁判所の審判や調停により廃除の決定がなされることがあります。 廃除の決定があれば、その相続人は、相続人としての資格を失うことになります。
上記いずれかの事由に該当し、かつ下記の要件が満たされれば、代襲相続が発生します。
- 代襲される者(被代襲者といいます)が、子または兄弟姉妹であること
配偶者や、父母などの直系尊属には代襲相続は認められていません。 - 代襲する者(代襲者といいます)が、被相続人の直系卑属であること
被代襲者が養子の場合、養子縁組前の連れ子は代襲者となることはできません。
代襲者が既に死亡しているなど代襲原因がある場合は、代襲者の子(被相続人から見ればひ孫)が代わりに相続人となります(これを再代襲といいます)。
なお被代襲者が兄弟姉妹の場合は、再代襲は認められていませんので、代襲者は兄弟姉妹の子(被相続人から見れば甥姪)であることが要件となります。
代襲相続が発生すると、代襲者は被代襲者と同順位でその相続分を受け取ることができます。
4.直系卑属を相続人にする手続き方法と流れ
遺言書があれば、遺言書に書かれた内容に従い遺産分割を行いますが、遺言がない場合、誰が何を相続するかについては相続人全員による話し合いで決めることになります。
この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は、相続人全員による参加が義務付けられています。
そのため、相続人の一人でも欠いた遺産分割協議は無効となりますので、注意が必要です。
また、相続人のなかに未成年者や認知症の方などがいる場合は、遺産分割協議は法律行為に該当するため、この者たちが単独で遺産分割協議に参加しても無効となります。
特別代理人や成年後見人などの代理人を選任し、本人に代わって、この代理人を遺産分割協議に参加させる必要があります。
ここでは、相続人のなかに未成年者がいる場合の相続手続きについてご説明します。
(1)直系卑属に未成年者がいる場合
未成年者は単独では法律行為を行うことができないため、通常は法定相続人である親が未成年の子を代理して法律行為を行うことになります。
ただし、親も相続人となっている場合は、未成年者の子と親は利害が対立することになりますので、親が未成年の子を代理して遺産分割協議に参加することは、利益相反行為として許されません。
そこで、未成年の子のために特別代理人を選任する必要があります。
(2)特別代理人の選任が必要となる場合
具体例でみていきましょう。
上図では配偶者と長女、長男が相続人となり、具体的に誰が何を相続するかは、3者の話し合い(遺産分割協議)により決めることになります。
ただ、長女、長男はともに未成年者であるため、二人のために、各々特別代理人の選任が必要となります。
つまり、上図のように法定相続人となる親が相続人となっている場合は、未成年者の子のために、それぞれ特別代理人を選任する必要があるというわけです。
では法定相続人である親が相続放棄をした場合はどうでしょうか。
この場合は、親と未成年の子の利益は対立しませんので、親は未成年の子を代理して遺産分割協議を行うことができます。
ただし、代理できるのは未成年の子一人だけです。
親が複数の子を代理できるとなると、子同士の利益が対立する可能性があるからです。
したがって上図では親が長男を代理した場合は、長女のために特別代理人の選任が必要となります。
特別代理人の選任が必要か否かについては下図を参照してください。
親 |
相続する |
相続放棄 |
相続放棄 |
相続放棄 |
長男 |
相続する |
相続する |
相続放棄 |
相続する |
長女 |
相続する |
相続する |
相続放棄 |
相続放棄 |
特別代理人の選任の必要性 |
長男・長女それぞれに特別代理人の選任が必要 |
長男・長女のいずれか一方を親が代理し、他方については特別代理人の選任が必要 |
親が長男・長女を代理できるので、特別代理人の選任は不要 |
子同士の利害が対立する可能性があるので、長女のために特別代理人の選任が必要 |
(3)特別代理人を選任せずに遺産分割協議をした場合
未成年の子について特別代理人を選任せずになされた遺産分割協議は無効となります。
(4)特別代理人の選任申立ての手続き
特別代理人の選任申立は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立てに必要な書類としては下記のものがあります。
- 特別代理人選任申立書
裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
- 記入例はこちらを参照してください。
- 申立人となる親権者と子の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票
特別代理人となるための資格は特に定められていません。
叔父や叔母など、利害関係のない親せきを候補者にしても差しつかえありません。
- 遺産分割協議書の案
未成年の子に不利な内容の遺産分割協議案では、家庭裁判所が認めない可能性がありますので、特段の事情がない限り、法定相続分(配偶者と子が相続人の場合は、1/2)は最低限確保した内容の遺産分割協議書案を作成するのが無難です。
申立てに必要な費用は、①収入印紙800円分、②切手 716円(82円×8,10円×6)となっています。
まとめ
直系卑属が相続人となる場合、直系卑属が未成年者であれば、相続手続きと並行して、特別代理人の選任申立てが必要となります。
特別代理人の選任申立には、申立書の作成や遺産分割協議書案を提出する必要があることから、法律の知識が要求されることになり、相続人の方がご自身で手続きを進めるには、負担が大きいといえます。
この点、弁護士に依頼すれば、相続手続きだけでなく特別代理人の選任申立も同時に行ってくれるので、時間や手間を大幅に省くことができます。
お困りごとがあれば、すぐに弁護士に相談してみましょう。