生前贈与には贈与契約書が必要?そのポイントと注意点を解説
生前贈与相続時のトラブルを未然に防いだり、相続税の対策をしたりするために、生前贈与を検討する人が多くなっています。
では、生前贈与はただ財産を贈与するだけでいいのでしょうか。
それとも、契約書などは必要なのでしょうか。
答えは「贈与契約書は作るべき」です。
ここでは、なぜ贈与契約書は必要なのか、また作成のポイントや注意点にはどのようなものがあるのか解説します。
1.贈与とは
まず「贈与」とは何か、贈与するとどのような税金がかかるのかなど、その仕組みを見ていきましょう。
贈与とは、簡単に言うと「ある人が第三者にただで自分の持っている財産をあげること」です。
この第三者は親族でなくても問題ありません。
相続は死亡という事実をもって財産を渡すのに対し、贈与は生きている間に贈与者が財産をあげる旨の意思表示をし、受贈者が財産をもらう旨の意思表示をしたときに初めて成立します。
どちらか一方だけの意思表示だけでは成立しません。
では「贈与税」とはどのようなものなのでしょうか。
贈与は財産を第三者にただであげる行為です。
もしも、受贈者(財産を贈与される人)が贈与以外の方法でその財産と同等のものを手に入れるためには、労働で得た自分のお金で購入しなければなりません。
これでは、不公平になってしまうため、贈与税がかけられます。
また、贈与税をかけることで、相続税で課税されない部分を補完する意味もあります。
贈与税でポイントとなるのが、「誰が税金を支払うのか」ということです。
これは贈与された人が支払います。
では、ここで贈与税の手続きについて整理しましょう。
贈与税は、贈与を受けた人が、受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与を受けた人の住所地を所轄する税務署に贈与税の申告と納税をする必要があります。
原則、どんな人でも年間110万円までの控除額を持っているので、贈与を受けた金額から110万円を差し引いた金額に対し、10%~55%(課税価格により異なる)の税金が課せられます。
年間110万円までの贈与の場合は贈与税の申告は必要ありません。
2.贈与契約書の目的
今まで、贈与について見てきました。
ここからは、なぜ贈与に贈与契約書が必要なのか、その目的について解説します。
贈与は、贈与者と受贈者の両方の意思表示があって成立します。
実はこの意思表示は、口約束でも問題ないとされています。
しかし、一般的には贈与契約書を作成して残しておいた方がよいです。
それには次の2つの理由があります。
(1)贈与者の死後に相続人同士のトラブルを避ける
贈与は、贈与者と受贈者の両方の意思表示があって成立しますが、口約束では、贈与者の死後、本当に贈与者が贈与する意思表示があったかどうかわかりません。
そのため相続人同士で、遺産の分割をめぐってトラブルになる可能性があります。
贈与契約書があれば、贈与者の贈与に対する意思表示があることは明確なので、相続人同士のトラブルを避けることができます。
(2)税務調査の対策
贈与が行われれば、受贈者は贈与税の申告と納税を行います。
この贈与税の申告には後日、税務調査が行われる可能性があります。
その場合、まず贈与の事実について調査することになりますが、客観的な証拠を提示する必要があります。
特に現金等の贈与の場合、客観的な証拠といっても限られてくるため最低限、証拠書類として贈与契約書を作成して残しておく必要があります。
3.贈与契約書の基本の書き方
贈与の際には、贈与契約書を作成して残す必要があることが理解していただけたかと思います。
ここからは、贈与契約書の基本の書き方を見ていきましょう。
贈与契約書では、こうしないといけないという書式は決まっていません。
代わりに必ず記載しなければならない事項が5つあります。
- いつ
- 誰に
- 何を
- どんな条件で
- どのような手段(方法)で
贈与するのかということです。
上記5点を含め、現金を贈与する場合の贈与契約書の雛形は以下のようになります。
不動産を贈与する場合は、不動産の所在地などの情報を記載する必要があります。
原則法務局で取得できる「登記事項証明書」のとおりに記載します。
不動産を贈与する場合の贈与契約書の雛形は以下のようになります。
4.贈与契約書作成時の注意点
贈与契約書を作成する際には、いくつか注意点があります。
ここからは、贈与契約書作成時の注意点を見ていきましょう。
(1)手書きまたはWordで作成する。
贈与契約書は、手書きでなければならないという、きまりはありません。
そのため手書きで作成してもWordで作成しても、有効です。
ただし、日付や署名は手書きのほうがよいでしょう。
(2)押印には実印を押す。
署名した後は、押印をします。
契約書の効力としては認印でも問題ありませんが、贈与者の死亡後に正当性を疑われないためにも実印を押したほうがよいでしょう、
(3)毎年贈与する場合は、その都度作成する
毎年贈与が発生する場合は、その都度贈与契約書を作成する必要があります。
贈与税には毎年110万円の控除があります。
そのため、1年で1,000万円を贈与すると贈与税がかかりますが、10年かけて毎年100万円ずつ贈与すれば、結果1,000万円の贈与であっても贈与税がかかりません。
しかし、長期間にわたって、毎年または定期的に同額を贈与していれば、もともと一括で贈与する意思があったとみなされて、初年度に遡り、贈与税を課されてしまいます。
その意思がなかったとしても認定されてしまう恐れがあるので、毎年贈与が発生する場合は、必ずその都度贈与契約書を作成しましょう。
※毎年、贈与契約書があったからといって必ず一括としてみなされないというわけではありません。その他の状況など総合的に鑑みて判断されます。
(4)不動産の贈与の場合は、登記事項証明書のとおりに記載する
雛形のところでも少し触れましたが、不動産の贈与の場合は、所在や構造、面積などは登記事項証明書のとおりに記載する必要があるので注意しましょう。
また、登録免許税などの登記費用や、不動産取得税・固定資産税などの税金を誰が負担するかも記載する必要があります。
5.生前贈与時の注意
上記では、贈与契約書作成時の注意点について解説したので、ここからは生前贈与をするときの注意点について解説します。
(1)申告や税金の納付が必要
生前贈与は、うまく使えば、相続時のトラブルを未然に防いだり、相続税の対策になったりします。
しかし、相続税の申告や納付が必要になるので、納税資金なども考慮にいれて生前贈与する必要があります。
(2)相続時精算時課税やその他の非課税制度を検討する
生前贈与には、1年間に110万円までの控除がある通常の贈与(暦年贈与)の他にも、贈与時は税金をかけずに、相続時に贈与分の財産も合算して相続税をかける相続時精算時課税の制度もあります。
この制度を使えば、贈与がしやすくなります。
また、育児や教育、出産など特別な目的のために贈与を行う場合は非課税制度もあります。
暦年贈与だけでなく、こういった制度の検討することで賢く生前贈与をすることが可能です。
(3)現金の贈与は通帳を通して行い、証拠を残す
生前贈与で一番証拠が残らないのが、現金の贈与です。
後に税務調査が行われたときのこもとも考えて、きちんとした証明書類を残す必要があります。
そのためには贈与契約書を作成して残すとともに、受贈者の通帳に贈与する現金を振り込み贈与したという証拠を残す必要があります。
(4)相続前3年以内の贈与の場合、相続税の計算に加算される
法定相続人などに贈与をしてから3年以内に贈与者が死亡した場合は、その贈与した財産は死亡時の遺産に加えて、相続税の計算を行う必要があります。
もしも生前贈与が相続税の対策のものであれば、その効果が薄くなる可能性が高いので、注意が必要です。
贈与は贈与者が元気な間にできるだけ早く行うほうが良いでしょう。
まとめ
今回は生前贈与の際に必要な贈与契約書について解説しました。
贈与は、贈与者と受贈者の両方の意思表示があって初めて成立します。
そのため、贈与者の死後に贈与者の意思表示を確認できるようにするためにも、贈与契約書は必要です。
しかし、贈与契約書には贈与する財産の違いにより記載しなければならない内容が決まっているなど、さまざまな注意点があります。
また、生前贈与自体にも注意しなければならないことがさまざまあります。
そのため、生前贈与を考えている場合は、できるだけ早く弁護士なども専門家に相談したほうがよいでしょう。