子や孫へ生前贈与して賢く相続税対策する方法
生前贈与自分で頑張って築き上げた財産。
できるだけ相続税などの負担をかけず、子や孫へ引き継ぎたいと思う方も多いでしょう。
実は、子や孫への財産の引き継ぎに生前贈与を使えば、賢く相続税対策をすることができます。
それは政府の政策によるものが大きいのですが、目的に合った生前贈与をすれば、贈与税を非課税にするという制度がたくさんあるからです。
今回は、どういった非課税の特例があるか、また、どうすればその特例を使えるかなど、生前贈与で賢く相続税対策をする方法を徹底解説します。
目次
1.暦年課税制度と相続時精算課税制度
まずは、贈与税の基本の課税制度から見ていきましょう。
贈与をすると贈与税を納付する必要があります。
その贈与税には暦年課税制度と相続時精算課税という2つの課税制度があります。
通常、暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらが自分に有利かを考え、有利な方を選択します。
(1)暦年課税制度
暦年課税制度とは、通常の贈与のことです。
年間110万円までの贈与なら贈与税はかかりません。
また、贈与税の申告をする必要もありません。
年間110万円までということは、毎年110万円ずつ贈与すれば、贈与税は一切かからないことになります。
110万円を超えると、超えた部分に対して贈与された金額により10%から55%までの税金がかかります。
(2)相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、合計2,500万円までの贈与なら贈与時には贈与税をかけないかわりに、相続時に贈与したものも含めた財産全てに相続税をかける制度です。
生前贈与をしやすくするために考えられた制度です。
ただし、贈与する人や贈与を受ける人、金額などに一定の制限があります。
また贈与税がかからなくても、贈与された翌年の2月1日から3月15日までの間に、「贈与税の申告書」「相続時精算課税選択届出書」に戸籍謄本や住民票などの添付書類をつけて、所轄税務署に提出する必要があります。
(3)暦年課税制度と相続時精算課税制度の違い
暦年課税制度と相続時精算課税制度には下記のような違いがあります。
この違いをしっかりと理解して、有利な方を選択する必要があります。
①贈与者・受贈者
暦年課税制度の場合は、贈与する側・贈与を受ける側ともに親族だけでなく第三者でも問題ありません。
相続時精算課税制度の場合は、贈与する側・贈与を受ける側に年齢制限等があります。
60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子供または孫への贈与に限られます。
第三者への受贈にはこの制度を利用できません。
②制度の選択
暦年課税制度を選択する場合は特に何もする必要がありません。
一方、相続時精算課税制度では、贈与された側が贈与する人ごとに相続時精算課税制度を選択するかどうかを決めます。
たとえば、子や孫自身が祖父からの贈与は暦年課税制度を選択し、祖母からの贈与は相続時精算課税制度を選択するということが可能です。
③非課税限度額
暦年課税制度は毎年110万円まで、相続時精算課税は相続があるまでに合計で2,500万円までが非課税です。
毎年少しずつ贈与する場合は暦年課税制度の方が得になり、ある年に多く贈与をする場合は、相続時精算課税制度の方が贈与時の税金が安くなります。
④税率
暦年課税制度は贈与された金額により10%から55%までの税率が定められています。
相続時精算課税制度は、贈与を受けた合計額の2,500万円を超えた部分に一律20%の税率がかかります。
⑤申告
暦年課税制度の非課税限度額は110万円。
この額までの贈与なら申告不要です。
一方、相続時精算課税制度の非課税限度額は2,500万円ですが、この額までの贈与でも申告が必要です。
⑥相続時
相続税を申告するとき、暦年課税制度では相続した財産のみを申告(相続開始前3年以内のものを除く)します。
一方、相続時精算課税制度は、たとえ贈与時に贈与税がかからなかったとしても、相続時に贈与された財産を他の相続財産と合算して相続税を計算します。
これとは別に、目的にあった贈与なら贈与税が非課税で、なおかつ相続時に加算する必要のないものもあります。
次の項目からはそうした非課税制度について解説していきます。
2.住宅を取得するための贈与は贈与税がかからない
20歳以上の子供や孫が、父母や祖父母から住宅を取得するために資金の援助を受けた場合には、その年度や住宅に応じて一定金額が贈与税の非課税になる制度があります。
これを「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度」といいます。
この非課税制度を受けるには一定の条件があります。
主な条件を紹介します。
(1)贈与者・受贈者
贈与者となることができるのは、受贈者の父母や祖父母などの直系尊属のみ。
ただし、年齢等の制限はありません。
受贈者の条件は、贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること、贈与を受けた年の所得が2,000万円以下であることです。
(2)購入する家屋の条件
- 取得または新築・増改築した建物が日本国内にあり、登記簿上の床面積(が50㎡以上240㎡以下であること。
※床面積の1/2以上を居住用に使っている必要がある。
中古住宅は、その建物が耐火建築物の場合は築後25年以内、耐火建築物以外の場合は築後20年以内のものに限る。
- 増改築等の場合は、増改築等工事証明書などで一定の基準であることを証明されたものであり、かつ工事に要した費用が100万円以上であること。
(3)居住要件
この制度を受けるためには、翌年3月15日までにその住宅に住んでいるか、翌年12月31日までに確実に住む見込みである必要がある。
(4)非課税制度
贈与を受けた年や取得した住宅が省エネ住宅かそれ以外の住宅かによって、非課税限度額が決まっています。
- 下記以外の場合
契約の締結日 |
省エネ等住宅 |
左記以外の住宅 |
平成32年 3月31日まで |
1,200万円 |
700万円 |
平成32年 4月 1日から 平成33年 3月31日まで |
1,000万円 |
500万円 |
平成33年 4月 1日から 平成33年12月31日まで |
800万円 |
300万円 |
- 住宅用家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合
契約の締結日 |
省エネ等住宅 |
左記以外の住宅 |
平成32年 3月31日まで |
3,000万円 |
2,500万円 |
平成32年 4月 1日から 平成33年 3月31日まで |
1,500万円 |
1,000万円 |
平成33年 4月 1日から 平成33年12月31日まで |
1,200万円 |
700万円 |
このほかにも、贈与額の全額を住宅取得のために使わなければならない、贈与税の申告が必要などの要件があります。
必要書類なども複雑なため、この制度を利用する場合は早めに弁護士等の専門家に相談しましょう。
3.教育資金の贈与は贈与税がかからない
平成31年3月31日までに、30歳未満の子や孫に教育資金を贈与した場合は、一定金額が非課税になる制度があります。
この制度は少し複雑なため、適用要件などを確認していきましょう。
(1)贈与者・受贈者
贈与者となることができるのは、受贈者の父母や祖父母などの直系尊属のみ。
ただし、相続時精算課税制度のように年齢等の制限はありません。
受贈者は30歳未満の者に限られ、必要事項が記載された教育資金非課税申告書を、金融機関を経由して税務署に提出する必要があります。
(2)信託条件
この制度を利用する場合は、実際受贈者が使用するのが後であっても、あらかじめ一括で資金を金融機関や信託会社、金融商品取引業者に信託(預入)等をする必要があります。
(3)非課税制度
金融機関等に信託した資金を教育目的に払い出す場合、この教育資金は非課税となりますが、その内容により非課税限度額が異なります。
学校等に払う入学金や授業料などは合計1,500万円まで、学校以外の塾などに支払う授業料などは合計500万円までが非課税となります。
(4)終了時の処理
受贈者が30歳になったときや死亡したとき、または信託していた資金が0円になったときなどは、預入をしている金融機関などとの教育資金管理契約は終了となります。
受贈者が死亡したとき、または信託していた資金が0円になったときは問題ありませんが、受贈者が30歳に達したときに信託していた教育資金に残高がある場合は、その金額に対し贈与税がかかるので注意が必要です。
4.結婚や子育てのための贈与は贈与税がかからない
平成31年3月31日までに、子供や孫の結婚や子育ての資金を贈与した場合は、一定金額が非課税になる制度があります。
この制度も少し複雑なため適用要件などを確認していきましょう。
(1)贈与者・受贈者
贈与者となることができるのは、受贈者の父母や祖父母などの直系尊属のみ。
ただし、相続時精算課税制度のように年齢等の制限はありません。
受贈者は20歳以上50歳未満の人に限られます。
また、必要事項が記載された結婚・子育て資金非課税申告書を、金融機関を経由して税務署に提出する必要があります。
(2)信託条件
この制度を利用する場合は、実際受贈者が使用するのが後であっても、あらかじめ一括で資金を金融機関や信託会社、金融商品取引業者に信託(預入)等をする必要があります。
(3)非課税制度
金融機関等に信託した資金を結婚・子育て目的に払い出す場合、この資金は非課税となりますが、その内容により非課税限度額が異なります。
妊娠・出産及び育児等の費用は合計1,000万円まで、挙式費用などの結婚の費用は合計300万円までが非課税となります。
(4)終了時の処理
受贈者が50歳になったときや死亡したとき、または信託していた資金が0円になったときなどは、預入をしている金融機関などとの結婚・子育て資金管理契約は終了となります。
受贈者が死亡したり、信託していた資金が0円になったりしたときは問題ありませんが、受贈者が50歳に達したときに信託していた結婚・子育て資金に残高がある場合は、その金額に対し贈与税がかかるので注意が必要です。
5.生前贈与の注意点
子や孫に生前贈与をする場合には、いくつか注意点があるので、確認しましょう。
(1)毎年110万円程度の贈与には注意が必要
通常の贈与である暦年課税制度では、毎年110万円までの贈与は贈与税がかかりません。
では、相続税の節税のために毎年110万円ずつ財産を親族に移管していくことができるかというと、相続税対策でなく実際に贈与をしなければならない理由がない場合は、認められない可能性があります。
また、暦年課税制度を利用する場合も、贈与が必要である根拠や証拠等が必要なことに注意しましょう。
(2)暦年課税制度と相続時精算時課税制度を使い分ける
暦年課税制度と相続時精算時課税制度にはそれぞれメリットがあります。
暦年課税制度の主なメリットは、年間の贈与が110万円以下なら贈与税がかからないことや、贈与税の申告が不要なことです。
相続時精算時課税制度のメリットは、贈与後、贈与された財産の価値が上がっても相続時に影響を受けない(贈与時の時価で相続税の計算をするため)ことや、収益を生む資産を贈与すればその収益は受贈者のものとなり、相続財産に含まれないため相続税対策になることなどです。
それぞれのメリットを把握し、自分に有利な制度を利用する必要があります。
まとめ
生前贈与を賢く使うと子や孫に喜ばれるだけでなく、贈与・相続を通じて節税にもなります。
しかし、それぞれの非課税特例にはさまざまな適用要件があったり、手続きが複雑だったりするので注意が必要です。
ただ、自分に当てはまるのであれば、絶対に非課税特例を利用した方が得になります。
生前贈与を考えるなら、できるだけ早めに弁護士などの専門家へ相談しましょう。