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財産処分すると相続放棄や限定承認ができない?その理由を解説

相続があった場合、遺産の中に借金が含まれていたら、相続放棄や限定承認によって借金の相続を避けることができます。

ただ、このような場合でも遺産にプラスの資産が含まれていることがあり、相続人が相続財産を使ってしまったり処分してしまったりすることがあります。
相続人が財産の処分行為をすると、相続放棄や限定承認はできなくなってしまうのでしょうか?

今回は、相続人による財産処分と相続放棄、限定承認の関係について、解説します。

1. 財産処分をすると相続放棄、限定承認ができない!

遺産相続が起こった場合、遺産の中に預貯金や不動産などの資産や、借金などの負債が含まれていることがあります。

こうした場合、相続人の遺産相続に対する対処方法としては3種類があります。

それは、単純承認と限定承認、相続放棄です。

単純承認とは、遺産相続に一切の条件をつけずにすべての遺産を相続することです。

限定承認とは、遺産の内容をプラスマイナスで差引計算して、プラス部分が多い場合にのみそのプラス分を相続する方法です。

限定承認をすると、マイナス分が多い債務超過の場合には相続しません。

相続放棄とは、プラス分もマイナス分も含めて、一切の遺産相続をしないことです。

たとえば、遺産の中に借金が含まれている場合には借金を相続しないための方策が必要ですが、単純承認をすると借金を相続してしまうので、借金を免れたいなら単純承認ではなく相続放棄や限定承認をする必要があります。

しかし、ここで相続人が勝手に財産処分をしてしまうと、相続放棄や限定承認ができなくなってしまうので、注意が必要です。

2. 財産処分によって相続放棄、限定承認ができなくなる理由

相続人が財産処分をすると、どうして相続放棄や限定承認ができなくなってしまうのでしょうか?

それは、法律により、その行為があると当然に単純承認が成立してしまうという「法定単純承認」が定められているからです。

いったん単純承認が成立したら相続放棄や限定承認はできなくなるので、法定単純承認が成立してしまうと、その後借金を免れるために相続放棄や限定承認をしたいと思っても、それらの手続きはできなくなってしまいます。

また、相続放棄や限定承認をした後であっても法定単純承認が成立する可能性があり、こうした場合には、やはり相続放棄や限定承認の効果が認められなくなって、借金の支払をしなければなりません。

そして、相続財産の処分は、法定単純承認の1事由とされています。

そこで、相続人が相続財産を処分すると、その時点で法定単純承認が成立して、相続放棄や限定承認ができなくなります。

以上のように、遺産の中に借金がある場合などには、勝手に財産処分をすると大きな不利益があるので、そのようなことをしないよう注意が必要です。

3. どんな場合に財産処分となるのか?

それでは、具体的にどのようなケースで財産処分となって法定単純承認が成立し、相続放棄などができなくなるのでしょうか?

これについては、広く遺産を処分した場合が含まれます。

たとえば、遺産内容になっている不動産を売却した場合や、長期の賃貸借契約を締結して人に貸した場合、抵当権を設定した場合などに処分行為となります。

また、遺産の中に債権(貸金などの請求権)がある場合に、その債権回収をした場合にも財産の処分とみなされます。

さらに、財産を実際に壊したり捨てたりする方法で、物理的に処分した場合にも法定単純承認は成立します。

これに対し、単に相続財産を保存するだけであれば、財産処分には該当せず法定単純承認は成立しません。

たとえば、支払期限が来た相続債務を支払ったり、腐敗しやすいものを捨てたりする等の行為は保存行為となるので、法定単純承認は成立しません。

また、被相続人の身の回りの品などの財産的価値のないものを形見分けしたり、遺産を葬儀代の支払や仏壇、墓石などの購入費用に充てたりすることも処分行為にはならないと考えられています。

4. その他の法定単純承認

法定単純承認が成立すると、相続放棄や限定承認ができなくなってしまいますが、財産処分以外にも法定単純承認が成立することがあるので、以下で見てみましょう。

まずは、熟慮期間が経過した場合です。

相続放棄や限定承認をするためには、3ヶ月の熟慮聞内に行う必要があります。

熟慮期間とは、「自分のために相続があったことを知ってから3ヶ月間」ですが、具体的には、「相続があったこと」と「被相続人に借財などの負債があったこと」を知ってから3ヶ月以内であると理解されています。

相続放棄や限定承認をする場合には、この熟慮期間内に家庭裁判所で申述手続きをしないといけないのですが、その手続きをせずに熟慮期間が経過してしまった場合には、当然に法定単純承認が成立して相続放棄や限定承認ができなくなります。

また、相続人に背信行為があった場合にも法定単純承認が成立します。

背信行為とは、相続人が財産隠しをしたり指摘に消費したりした場合、限定承認をする際に虚偽の内容の遺産目録を提出したりした場合などのことです。

たとえば、相続放棄した後であっても、こっそり財産を隠しておいて自分で使ってしまった場合や、限定承認をする際に遺産の内容を少なめに偽って財産目録を作成・提出した場合には法定単純承認になってしまいます。

相続放棄や限定承認によって借金を免れたいのであれば、こうした背信行為はしないで正直に手続きを行うことが重要です。

5. 相続放棄後の財産管理方法は?

相続放棄をしたら、自分ははじめから相続人ではなかったことになるので、相続財産の処分ができません。

しかし、実際に相続財産がある場合、管理せずに放置しておいて良いのかという問題があります。

たとえば、相続財産の中に不動産がある場合、その不動産を適切に管理していないと中が傷んで害虫などが発生することがありますし、壁が壊れてしまったりすることもあります。

貴金属や骨董品などの場合でも、放っておくと逸失してしまったり、毀損して価値が減少したりすることもあります。

このような場合、相続放棄をしたとしても、相続人には相続財産を管理する義務があります。

このときの注意義務の程度は、自分のものを管理するのと同じ程度のものです(民法940条1項)。

相続放棄をすると、他の相続人が相続する場合にはその人に遺産を引き渡しますし、誰も相続しない場合には相続財産管理人が選任されるのを待って、その人に相続財産を引き渡すことになります。

相続放棄した人は、引き渡しをするまでの間、適切に相続財産を管理する義務があり、この義務に反して相続財産が毀損された場合には、後日債権者や他の相続人から損害賠償請求をされるおそれもあります。

このように、相続人は相続放棄をしても完全に義務を免れるわけではがなく、きちんと相続財産の管理をしなければならないことを覚えておく必要があります。

以上のように、相続放棄をすると、処分行為をすることは許されませんが、かといって管理を怠ることはできないという不安定な立場になってしまいます。

相続財産を適切な人に引き渡すまでの一定の期間だけのものではありますが、この間の対処方法を誤ると、相続放棄の効果が無くなってしまったり、他の相続人から損害賠償されたりするおそれもあるので、くれぐれもそのようなことのないよう慎重に対応する必要があります。

まとめ

相続をしたときに財産処分をすると、基本的に相続放棄や限定承認ができなくなります。このことは、相続放棄する前であってもした後であっても同じです。

遺産の中に借金などの借財があって相続放棄や限定承認をしたい場合には、相続財産の処分をしないように注意しましょう。