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遺留分は放棄できる?手続き方法と注意点について詳しく解説

兄弟姉妹以外の相続人には、最低限相続できる財産が保証されています。
これを「遺留分」といい、遺言書の作成や遺産分割においては十分に配慮する必要があります。

例えば、長男に家業を継がせるため、「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書を作成した場合を考えてみましょう。

財産の所有者は自分の財産を自由に処分することができるので、遺言書に書かれた内容は、民法で定められた法定相続分に優先することになります。

ただし、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分が保証されていることから、遺言書の内容が遺留分を侵害するものであれば、遺留分を主張して、相続財産の取戻しを請求することができます(これを遺留分減殺請求といいます)。

つまり、遺言書に書かれた内容は遺留分を侵害しない限度で優先されるにすぎないわけです。

そのため「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書が残されていても、長男以外の相続人が遺留分を主張すれば、遺留分の限度で遺言書の効力は否定されることになり、その結果、長男は全財産を相続することができなくなります。

そこで検討されるのが「遺留分の放棄」です。

そもそも、遺留分は主張されない限り効力は発生しないため、遺留分を侵害された相続人が自発的に遺留分を放棄してくれれば争いなく問題を解決することができます。

上の例でも、長男以外の相続人が遺留分を放棄してくれれば、遺言書に書かれた通り長男が全財産を相続することができるというわけです。

では遺留分を放棄するには特別な手続きが必要なのでしょうか。手続きに際して注意すべき点はあるのでしょうか。

今回は、遺留分の放棄に必要な手続きや注意点について、わかりやく解説します。

1.遺留分の放棄とは

遺留分を侵害する遺贈(遺言書による贈与)や生前贈与であっても、法律上当然に無効となるのではなく、遺留分を主張されて初めて、遺留分を侵害する限度で無効となるにすぎません。

つまり、遺留分を侵害する遺贈や生前贈与が有効か無効かの判断は、遺留分を有する相続人の意思に委ねられているのです。

具体的には、遺留分を侵害された相続人が遺留分を主張して相続財産の取戻しを請求すれば、遺留分の限度で遺贈や生前贈与は効力を失うことになります。

逆に、遺留分を侵害された相続人が遺留分を主張せずに、これを放棄すれば、遺贈や生前贈与は有効であり続けることになります。

遺留分の放棄は、相続開始の前と後のいずれも行うことができますが、手続き内容が大きく異なってきます。

2.遺留分の放棄の方法

相続開始前、つまり被相続人の生存中に、相続人が遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要となります。

相続開始前の遺留分の放棄を無制限に認めてしまうと、本人の意思にかかわらず被相続人によって遺留分の放棄を強要される危険性があるからです。

これに対し、相続開始後の遺留分の放棄には、被相続人による強要の危険がないことから、家庭裁判所の許可は必要ではなく、相続人はいつでも自由に遺留分を放棄することができます。

3.相続開始前の遺留分の放棄

被相続人が生存中に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要となります。

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「遺留分放棄の許可申立て」を行うことになります。

(1)必要書類

必要書類は下記のものとなります。

  • 申立書

家庭裁判所のホームページ(裁判所|遺留分放棄の許可の申立書)からダウンロードできます。記載例はこちら(リンク貼ってください。家事審判申立書

  • 被相続人の戸籍謄本
  • 申立人の戸籍謄本
  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手

これ以外にも追加書類が必要となる場合があります。

(2)裁判所の許可の基準

相続放棄が認められるかどうかは、以下の2つを基準に判断されることになります。

  • 遺留分放棄が本人の自発的な意思に基づくこと
  • 遺留分を放棄するのに合理的な理由と必要性があること

①遺留分放棄が本人の自発的な意思に基づくこと

遺留分の放棄は、放棄する者の自発的な意思で行われることが前提要件となります。

かつて結婚を認める代わりに遺留分を放棄させたと疑われた案件では、遺留分の放棄が認められませんでした。

②遺留分を放棄するのに合理的な理由と必要性があること

遺留分を放棄するのに合理的な理由とは、代償措置がとられていることです。

具体的には、過去に相当額の贈与を受けているとか、遺留分の放棄の見返りに金銭の贈与を受けたといった事情があれば、遺留分の放棄は認められやすくなります。

ただし、この贈与は既に行われていることが必要です。過去、遺留分放棄後の贈与の約束だけでは、履行される保証はないことを理由に、申立てを却下した審判例があります。

この他、申立人と被相続人との間に確執がある場合や、申立人が十分な資産を持っている、生活に不安がないといった放棄の理由としては不十分な場合や、申立人が不利益を被るおそれがある場合などは不許可とされる可能性があります。

上記のような事由がなければ、ほぼ許可されているようです。

(3)遺留分放棄を撤回することの可否

では一度行った遺留分の放棄は撤回することができるのでしょうか。

遺留分の放棄の撤回は当事者間の合意では行うことはできず、再度、家庭裁判所の許可が必要となります。

遺留分の放棄の撤回は認められないのが原則であるため、例外的措置として家庭裁判所が許可を与えるには「事情の変化」が必要とされています。

例えば、長男に家業を継がせるため、次男が遺留分の放棄をした後、長男が家業をつがなくなった場合など、遺留分放棄の前提条件に変化が生じていることが必要です。

(4)遺留分放棄の効果

遺留分を放棄すれば、遺留分を失うことになりますが、相続権は失いません。

そのため、被相続人が遺言を残していなければ、法定相続分で相続財産を受け取ることや、あるいは他の相続人との話し合い(遺産分割協議)で相続財産を取得することもできます。

また、被相続人に借金などの負債があれば、法定相続分に応じてこれを返済する義務がありますので注意が必要です。

遺留分だけでなく、借金を含めた相続財産も受け継ぎたくない場合は、遺留分の放棄ではなく、相続放棄をする必要があります。

(5)遺留分の放棄と相続放棄

遺留分の放棄と混同しがちな制度に相続放棄があります。

遺留分を放棄しても、相続権を失うことはありませんが、相続放棄をすれば最初から相続人ではなくなるため、遺留分だけでなく相続権をも失うことになります。

被相続人に負債がある場合や、相続争いに巻き込まれたくない場合などは遺留分の放棄ではなく相続放棄を行うようにしましょう。

両者の違いをまとめたのが下表になります。

対処方法

遺留分放棄

相続放棄

生前放棄

できる

できない

手続き

生前の放棄は家庭裁判所の許可が必要

家庭裁判所に申述する必要がある

放棄する対象

遺留分

相続権

被相続人に借金があった場合

法定相続分に応じて返済する義務あり

返済する義務なし

遺産分割協議への参加

参加する必要あり

参加する必要なし

(6)相続開始後の遺留分の放棄

相続開始後の遺留分の放棄については、家庭裁判所の許可は不要で、相続人は自由に遺留分を放棄することができます。

また、特定の要式も不要で、遺留分減殺請求をしない限り、遺留分を放棄したことになります。

(7)遺留分放棄の注意点

遺留分の放棄は、被相続人が兄弟姉妹以外の相続人の遺留分を侵害する生前贈与や遺贈を行った場合に、有効となる制度です。

そのため、実務上、遺留分の放棄は遺言とセットで考えられています。

例えば、Aさんには子BさんCさんがいますが、家業をBさんに引き継ぐため、Cさんに遺留分の放棄をしてもらったとします。このとき、「全財産をBさんに相続させる」旨の遺言書が作成されていなければ、相続が開始すると、Cさんは相続人として法定相続分の遺産を取得することができてしまいます。

というのもCさんが放棄したのはあくまで遺留分であって、相続権ではないからです。

このようなことが起こらないためにも、遺留分の放棄とともに、必ず遺言書を作成するようにしましょう。

まとめ

特定の相続人や相続人以外のかたに財産を承継したい場合、他の相続人が自発的に遺留分を放棄してくれれば、争いを未然に回避でき、スムーズに遺産を承継することができます。

ただし、相続開始前の遺留分の放棄には家庭裁判所の許可が必要となります。

また許可基準も決められているため、遺留分の放棄が認められるケースかどうか、迷われたら、まずは弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。