相続財産管理人とは?選任すべき場合と申立手続方法を解説
相続手続き人が亡くなった場合、相続人がいればその人が遺産相続をすれば良いですが、中にはまったく相続人がいないケースがあります。
たとえば、身寄りがいない人が死亡した場合や、相続人が全員相続放棄をしてしまったケースです。
この場合、誰がどのようにして相続財産を管理するかという問題が起こります。
そこで今回は、相続人がいないケースで選任すべき相続財産管理人の制度について解説します。
目次
1. 相続人がいないケース
人が亡くなった際に相続人がいないと、遺産はどのように扱われるのでしょうか?
この問題を考える前提として、そもそも相続人がいないケースはどのような場合なのかを考えてみましょう。
相続人がいないケースには、大きく分けて2つのパターンがあります。
1つ目は、被相続人が遺言を残しておらず、かつ被相続人(亡くなった人)に全く身寄りがいないケースです。
遺言があれば、その遺言内容に従って遺産相続が行われるので、相続人がいないという事態にはなりにくいです。
遺言がない場合、民法上、遺産相続が認められているのは法定相続人なので、法定相続人がいないケースでは相続する人がいないことになります。
2つ目は、法定相続人がいても相続人全員が相続放棄してしまった場合です。
この場合も、遺産を相続する人がいなくなってしまうので、相続人がいない状態になります。
2. 相続財産管理人とは
相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任する必要があります。
相続財産管理人とは、遺産を管理して債権者に支払をしたり、相続人を探す手続をしたりして、最終的に遺産を国庫に帰属させる業務を行う人のことです。
相続人がいないケースであっても、遺産は存在するわけですから、そのまま放置することはできません。
相続放棄した場合であっても、遺産を適切に管理する義務がありますので、相続財産管理人を選任しない限り、いつまで経っても相続財産管理の責任から解放されないことになってしまいます。
相続人がいないケースで自分に利害が及ぶ場合には、相続財産管理人を選任してもらう必要があります。
3. 相続財産管理人の権限
相続財産管理人が選任された場合、具体的にはどのような権限を持つのでしょうか?
以下で説明します。
相続財産管理人は、遺産の保存行為と管理行為ができます。
処分行為はできません。
よって、遺産の状態を保存するために必要な行為はできますし、管理もできます。
相続人が相続放棄した場合であっても、遺産を相続財産管理人に引き渡せば、その後は相続財産管理人が遺産を管理してくれるので、相続人が遺産を管理する義務がなくなります。
相続財産管理人は、善良な管理者の義務をもって適切に遺産を管理する義務を負いますので、相続財産管理人に遺産を引き渡せば、遺産を毀損されるおそれなどもなくなります。
相続財産管理人には、基本的に遺産を処分する権限はありませんが、たとえば債権者に対して支払をするなど、処分行為が必要になることがあります。
この場合には、相続財産管理人は、家庭裁判所に申立をして、その許可を得てから遺産の処分を行います。
ただし、被相続人が生前に不動産を売却していた場合には、家庭裁判所の許可がなくてもそのための所有権移転登記手続に協力することができますし、被相続人が書面によらないで贈与をしていた場合にはその取り消しは可能です。
また、訴訟を起こされた場合には、相続財産管理人が応訴することができます。
相続財産管理人が、家庭裁判所の許可を得ずに処分行為などを行った場合には、相続財産管理人自身が無権代理人としての責任を負うことになります。
4. 相続財産管理人の選任方法
次に、相続財産管理人の選任方法をご紹介します。
相続財産管理人を選任するには、家庭裁判所への申立が必要です。
申立ができる人は、債権者や特別縁故者、相続放棄した人などの利害関係人と検察官です。
相続財産管理人を申し立てる際には、申立書に必要事項を記載して家庭裁判所に提出する必要があります。
申立書については、家庭裁判所にそなえつけてあるので利用すると良いでしょう。
申立の際には、いくつか必要な書類があります。具体的には以下の通りです。
- ・相続財産管理人選任申立書
- ・被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本
- ・被相続人の両親が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本
- ・被相続人の子供に死亡している者があれば、その生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本
- ・被相続人の兄弟姉妹に死亡している者があれば、その生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本
- ・被相続人の親や祖父母など直系尊属のうち、死亡している者の、生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本、除籍謄本
- ・被相続人の戸籍不評または住民票の除票
- ・不動産登記をしている場合には、不動産登記事項証明書
- ・不動産を所有している場合には、固定資産評価証明書
- ・預貯金や有価証券があれば、それらの残高がわかる書類
必要書類をそろえて、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立を行うと、裁判所で相続財産管理人選任のための審理が開かれます。
このとき、足りない書類や資料があれば、裁判所から追加で提出を要求されます。
審理の結果、選任の必要性があることが確認されたら、相続財産管理人が選任されます。多くのケースで弁護士が選ばれます。
5. 相続財産管理人選任の費用はどのくらい?
相続財産管理人選任のための費用について説明します。
相続財産管理人選任申立の際には、手数料として収入印紙が800円と連絡用の郵便切手が千円程度(各地の裁判所によって異なります)、官報公告費用が3775円必要です。
これらの費用以外に、予納金が必要になることがあります。
予納金とは、相続財産管理人の経費や報酬のための資金で、金額は、20万円~50万円程度です。
6. 相続財産管理人の選任後の手続きの流れ
以下では、相続財産管理人が選任された後の手続の流れをご説明します。
まずは、相続財産管理人が選任されたことが公告されます。
そして、相続財産管理人が相続財産の調査を行い、財産目録を作成します。
2ヶ月経っても債権者や受遺者が現れない場合には、債権者や受遺者などに対して、期間を区切って届出をするように促す公告をします。
届け出てきた債権者や受遺者がいれば、必要な支払を行います。
誰も届出をしなかった場合には、家庭裁判所に相続人捜索の公告をしてもらうように請求します。
家庭裁判所による公告があっても誰も届け出なかった場合、相続人がいないことが確定されます。
その後、特別縁故者がいればその者に対して遺産を分与する手続をします。
その後相続財産管理人に報酬を支払い、残った財産があれば、遺産は国庫に帰属することになり、すべての手続が終結します。
まとめ
今回は、相続財産管理人が必要になるケースと選任方法について解説しました。
相続人がいないケースでは、相続財産管理人を選任する必要があります。
相続放棄をしても、相続財産管理人に遺産を引き渡すまでは遺産の管理責任があるので、注意しましょう。
今回の記事を参考にして、上手に相続の手続を行いましょう。